阿仁川の環境DNA調査 🐟

「水をすくうだけで、川の魚たちの気配が見えてくる。」
阿仁川で行った環境DNA調査(網羅的分析とアユ特異種分析)の結果を、グラフと分かりやすい言葉で紹介します。

🧪 調査日:2025年10月29日 阿仁川漁業協同組合

このページは、専門家向けの難しい報告書というより、
「釣りはするけど、環境DNAってよく知らない」「川の中のこと、ちょっと気になる」という方に向けて作りました。

まずは「へえ、今の時代はこんなことまで分かるのか」くらいの気持ちで、気楽に眺めてみてください。

🧬 環境DNAとは?かんたん解説 --魚を捕まえずに川の中をのぞく方法です--

魚や生き物は、水の中に少しずつ「DNA」を出しています(フンや粘膜、はがれたウロコなど)。
川の水をすくって、その中に含まれるDNAを調べる方法を環境DNA(eDNA)調査とよびます。

現場での採水のようす

環境DNA調査では、釣り人のみなさんがいつも立ち込む瀬やトロ場で、 実際に川の水をくみ取ります。水量や流れを見ながら、できるだけ 川の状態を代表する場所で採水することが大切です。

阿仁川で環境DNA採水をしているようす1
荒瀬-瀬肩付近での採水。足元の安全を確かめながら、流れの中心に近い場所で水をくみ取ります。
阿仁川で環境DNA採水をしているようす2
根小屋堰堤下-流れの速さや川幅によって、採水位置を少しずつ変えています。

阿仁川環境DNA調査の採水地点マップです。地点をクリックすると各ポイントの情報がでます。

🐠 魚種ごとの環境DNA(網羅的分析)

「阿仁川にはどんな魚がいるの?」を一望できるグラフ

下のグラフでは、阿仁川本流と四季美湖の各地点について、魚種名ごとのeDNAリード数を表示しています。
タブを切り替えると、荒瀬・五味堀・小又川・阿仁前田・根小屋堰堤・下田平・四季美湖のデータが見られます。

阿仁川 eDNA 複数種リード数グラフ(詳細版)

採水場所タブを切り替えると、各地点の「魚種名 × リード数」棒グラフが表示されます。

リード(read)数とは:そのサンプルから読み取られたDNAの“断片の枚数(数)”のことです。

採水場所別 グラフ

タブ順:荒瀬 → 五味堀 → 小又川 → 阿仁前田 → 根小屋堰堤 → 下田平 → 四季美湖

© 阿仁川漁業協同組合
グラフの読み方
・横棒が長いほど、その地点でその魚のDNAが多く検出されています。
・サケ属・サケ科・ウグイ・カジカ類など、阿仁川らしい魚たちの分布を一望できます。
・タブ上部のボタンで、「全地点共通スケール」/「地点ごとの自動スケール」を切り替えられます。
  比較したいときは共通スケール、細かい差を見たいときは自動スケールが便利です。

🎣 アユだけに絞った環境DNA量(種特異分析)

アユの「気配の強さ」を地点ごとに比べるグラフ

こちらはアユだけに反応する分析で、各地点のアユDNA量を比較したものです。
グラフには「サンプルの平均コピー数(Copies/2µL)」を用いています。

阿仁川 eDNA 鮎コピー数(試料別・平均)採水2025/10/29

※「鮎」に特化した分析です。 各採水地点ごとに3回検査します。試料1〜3と「サンプル平均」の4本を横向き棒グラフで表示しています。

採水地点別 アユ環境DNA量(Copies/2µL)

測定値:定量結果およびサンプルの平均コピー数(Copies/2µL) / ND は検出限界未満を表します。

※コピー数とは:水の中にその魚のDNAが何コピー分あるか」を推定した“濃度の指標”

       ※リード数が「読めた回数」、コピー数が「実際のDNA量(濃さ)の推定値」という関係です。

※各地点とも同じ試料名で3回測定し、4本目の棒がその平均値です。
※ND(Not Detected)は棒グラフ上では0として描画し、値表示は「ND」としています。

© 阿仁川漁業協同組合
アユグラフの見どころ
・数値が高いほど、その地点周辺や上流側にアユの気配が強いと考えられます。
・ただし、流れ・水量・時間帯などの影響も受けるため、「釣れる数」を直接あらわすものではありません
・ND(検出限界未満)の地点でも、アユがまったくいないと断定できるわけではない点にご注意ください。

📏 環境DNAの見方と評価の目安

アユ濃度(Copies/L)とざっくりしたイメージ

アユ環境DNA濃度の目安(Copies/L)
濃度 状態 イメージ
0〜100 検出限界〜ごく少ない 通過直後・上流からの微量流入レベル
100〜1,000 少数確認レベル 個体数少・散在的な生息
1,000〜10,000 明確な生息反応あり 通常の生息または小群規模
10,000〜100,000 以上 高密度生息域 群れ・高い遡上集中域
今回の各地点のアユDNA濃度(環境水1Lあたり)
調査地点 Copies/L 簡単な解釈
荒瀬 2,131.990 明確な生息反応あり
五味堀 1,145.320 明確な生息反応あり
阿仁前田 1,468.510 明確な生息反応あり
下田平 13,175.490 高密度生息域に近い濃度
小又川・根小屋堰堤・四季美湖 ND DNA検出なし(またはごく微量)

※「2/3」「1/3」といった表記は、3回測定のうち何回検出されたかを示しています(例:2/3=3回中2回検出)。
※環境DNAはあくまで「魚の痕跡の濃さ」であり、尾数そのものではありません。

どのくらい上流から?どのくらい前の情報?

流れ方とおおよその検出範囲
区分 条件 検出範囲の目安
淵・止水域 流れが緩やか 数100 m
通常の中流 流速 0.3〜0.7 m/s 約 1km
速い瀬 流速が速く攪拌が強い 約1~2km
ダム湖・止水域 流れがほとんどない 数百 m〜1 km 程度
DNAの残存時間(検出可能な期間の目安)
水温条件 おおよその期間
夏季(25〜30℃) 1〜2日程度
春・秋(15〜20℃) 3〜7日
冬季(5〜10℃) 1週間〜10日

※検出された場所の数十〜数百m上流に魚がいるか、1〜数日前に通過した痕跡を見ていると考えるとイメージしやすいです。
※流速・水温・濁り・日射などによって検出範囲は変わります。

📊 今回の結果から見えてくること

1. 阿仁川全体の「魚の顔ぶれ」が見えた

網羅的な環境DNA分析により、阿仁川全体でウグイが相対的に高い検出頻度を示し、これに加えてヤマメと推定されるサケ属、イワナ属、カジカ属など、阿仁川にすむ主要な魚種の顔ぶれと、その大まかな分布を把握することができました。 また、四季美湖ではワカサギの棲息が環境DNAデータからも確認されました。下流域の下田平ではサケも検出されており、調査時期における遡上の状況と整合的な結果となりました。

一方で、少し残念な点もあります。下流域ではヤツメウナギのDNAが検出されず、また四季美湖でもサケ属のDNAは確認できませんでした。とくに四季美湖は面積が広く水深もあるため、今回のような限られた採水地点だけでは魚種の全体像をつかみきれない可能性があります。

※ヤツメウナギのDNA検出については当方から調査会社(株フィッシュパス様)への問い合わせに対し次のようなコメントを頂いております。
「ヤツメウナギは一般的な魚類とDNA構造が異なるため、環境DNAでは検出されにくい種ということです。多分当方見立ての通り生息の可能性はあると思われます。弊社でもヤツメウナギを検出できるよう分析手法を改善してまいります」ということで今後に期待したいと思います。

※ 科 > 属 > 種 という順番(科が一番“上”、種が一番“下”の細かい単位)

  • 従来の釣獲調査等で見えていた魚種と大きく矛盾しない結果でした。
  • 今後、年ごとの変化や支流ごとの特徴も追えるようになります。

2. アユの「気配の強い場所」と「弱い場所」

アユ特異種分析の結果、下田平においてコピー数が最も高く、荒瀬・五味堀・阿仁前田でも明瞭な検出が確認されました。
一方で、小又川・根小屋堰堤・四季美湖ではND(不検出)の状態が継続しており、阿仁川流域内におけるアユの分布が一様ではないことが示唆されます。この偏在は、調査時期の違いによる影響が大きいと考えられます。(今回調査日:10月29日)

下田平でコピー数が高値を示した要因としては、産卵期における親魚の集結が反映されている可能性が高いと推察されます。また、本調査区間の最上流に位置する荒瀬においてもコピー数が得られたことから、10月末の時点でも同区間に残留している個体群が存在していることが示され、予想外の結果となりました。

  • 解禁前の資源把握や、遡上・滞留の傾向を読む材料になります。
  • 同じ地点で継続して測ることで、年ごとの違いも評価できます。

3. 「サケ科の表示の読み方と、外来魚が出てこない阿仁川」

今回のeDNA解析結果には、
「サケ属の一種」「サケ科の一種」「サケ」
と、少し紛らわしいサケ科の表記が並んでいます。
これは、同じサケ科の仲間でも、
■ サケ
→ データベース上の「サケ(シロザケ)」とよく一致し、種まで特定できたもの
■ サケ属の一種(Oncorhynchus sp.)
→ サケ属までは絞り込めるものの、シロザケなのかサクラマス(ヤマメ)なのか…といった種レベルまでは決めきれないもの
■ サケ科の一種(Salmonidae sp.)
→ サケ科のどれかであることは確かだが、配列の共通部分が多く、属レベルにまで絞れなかったもの
という、「同定の細かさ」の違いを表しています。

阿仁川の場合、河川環境や従来の魚類相から考えると、
「サケ属の一種」として検出されたシグナルの多くは、
ヤマメ(陸封型サクラマス)を反映している可能性が高いと考えられます。
eDNAの性質上、「ヤマメ」と断言はできませんが、
阿仁川らしい在来のサケ科(サケ・サクラマス系・イワナ類など)が、
きちんと川の中で暮らしていることを示すサインのひとつと受け取ることができます。

一方で、今回の解析結果のリストを注意深く見ると、
・ブラウントラウト(Salmo trutta)
・ブラックバス類(オオクチバス/コクチバスなど)
といった外来の捕食魚の名前が、一度も出てきていません。
これらの魚は、いったん定着すると
・在来のサケ科や小型魚を強く捕食する
・生態系のバランスを大きく崩してしまう
ことが全国各地で問題になっている種類です。
もし阿仁川の本流やダム湖にある程度まとまった数がいれば、通常は
「ブラウントラウト」あるいは「Salmo trutta」
「オオクチバス」「コクチバス」などの和名/学名
として、eDNAの結果一覧に現れてくることが想定されます。

今回の結果では、
サケ・サケ属の一種・サケ科の一種といった在来のサケ科の信号はしっかりあるのに、
ブラウントラウトやブラックバス類の名前がまったく出てこない、という点が、 阿仁川の健全性を評価するうえで大事なポイントです。

川の空にはカワウの大群、水中にはブラックバス、さらにブラウントラウトまでが猛威を振るう、
という状態になってしまう河川もあることを考えると、
「外来捕食魚が出てこない」という今回の結果は、とても価値のあるデータです。

もちろん、eDNAは「検出されなかった=絶対にいない」とまでは言えません。
ごく少数だけがいる場合や、たまたま今回採水していない小さな支流・ワンドに潜んでいるといった可能性はゼロではありません。
それでも、
・阿仁川らしい在来サケ科(サケ・ヤマメ/サクラマス系・イワナ類など)の気配はある
・ブラウントラウトやブラックバスの強いシグナルは見えていない
という今回の結果は、
「阿仁川の魚たちの中心は、今もアユと在来サケ科・カジカ類である」
ことをデータとして裏付けてくれる、心強い材料だと言えます。

4. 資源管理や放流計画へのヒント

eDNAの情報は、遡上範囲・滞留分布の境界を推定するのに向いています。今後は放流量や禁漁区の検討などに、慎重に活かしていくことができます。

  • 「どこまでアユが上っているか」を客観的に確認できます。
  • 釣り人からの情報と組み合わせて、より実態に近い判断が可能になります。

解釈のときに気をつけたいこと

  • 環境DNA濃度は個体数そのものではなく、「痕跡の濃さ」を見ています。
  • 雨・増水・ダム操作などで、DNAが一時的に流されたり薄まることがあります。
  • 単一地点の絶対値よりも、複数地点の比較や、年ごとの変化を見ることが大切です。
  • 現場での観察や釣り人のみなさんからの情報と合わせて評価することで、より信頼できる判断につながります。

📂 測定データ一覧と報告書(参考資料)

グラフのもとになっている測定値の一覧です。
「どの地点でどれくらい測定されたか」を数字で確認したい方向けの情報です。

アユ環境DNA測定結果(地点別まとめ)
試料名 採水日 調査地点名 試料1
(Copies/2µL)
試料2
(Copies/2µL)
試料3
(Copies/2µL)
サンプル平均コピー数
(Copies/2µL)
環境水1Lあたりのコピー数
(Copies/L)
ANG_02_002 2025年10月29日 荒瀬 25.892 14.717 ND 20.305 2131.990
ANG_02_001 2025年10月29日 五味堀 8.453 15.041 ND 11.747 1145.320
ANG_02_006 2025年10月29日 小又川 ND ND ND ND ND
ANG_02_007 2025年10月29日 阿仁前田 14.685 ND ND 14.685 1468.510
ANG_02_003 2025年10月29日 根小屋堰堤 ND ND ND ND ND
ANG_02_005 2025年10月29日 下田平 132.816 106.738 ND 119.777 13175.490
ANG_02_004 2025年10月29日 四季美湖 ND ND ND ND ND

詳細な解析結果(PDF・専門向け)

魚種ごとのリード数が並んだ、生のデータ付きの網羅的分析報告書PDFも公開しています。
研究者・行政担当の方など、より詳しい情報が必要な場合にご利用ください。

組合員、釣り人のみなさんへ

🐟🐟
環境DNAによる阿仁川の健康診断

環境DNAのデータは、阿仁川のアユや魚たちの「健康診断」のようなものです。
解禁前の準備や、今後の放流計画・資源管理に活かしつつ、 釣り人のみなさんが安心して楽しめる川づくりにつなげていきます。


環境DNA調査結果のグラフ

阿仁川の環境DNA調査は、阿仁川の今の姿とこれからを知るための取り組みです。
今回の結果から「阿仁川には、いるべき魚たちがちゃんと暮らしている」ということが、数字として確認できました。これは、川を預かる者としてとても心強いことでした。 また、環境DNAを続けていくことで、特定外来種や心ない密放流を早めに察知することもできます。
「阿仁川は勝手な放流を許さない川です」「ちゃんと見ていますよ」というメッセージにもなり、阿仁川ブランドを守る一つの道具になってくれるはずです。

楽しい阿仁川

漁協としては、今後も釣獲調査や各種調査と並べて、この環境DNA調査も「阿仁川の定期健康診断」として続けていければと考えています。
阿仁川の将来を見据えた取り組みのひとつとして、少しずつデータを積み重ねていきたいと思います。
これからも、阿仁川の様子をできるだけ「見える形」にしてお伝えしていきますので、釣り人のみなさんもぜひ一緒に、阿仁川を見守っていただければうれしいです。

※本ページのデータは、調査時点の環境条件にもとづくものであり、
  その後の増水・渇水・遡上状況などによって変化します。シーズンの最新の釣り情報は「阿仁川鮎釣り情報」「阿仁川渓流リバーキーパー釣行日誌」「米代川水系サクラマス釣り情報」をご覧ください。