時 事 法 談 (84)

「人との縁で成長する」

2007年3月1日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期) この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「人との縁で成長する《と題してお話します。

1、 初生の赤子

今月から、拳士勧誘のキャンペーンを始めます。具体的な企画は先ほどお話したとおりですので、皆さんよろしくお願いしますね。
 さて、皆さんにもここで新入門の頃を思い出してもらいたいと思います。私たち拳士は、入門式でも毎日の鎮魂行でも、誓願の中で「一切の既往を清算し、初生の赤子としてこの法修行に専念す《と唱和しています。開祖は、コップの水でこのことを説明されたそうです。色のついた水がコップの中に入っていたら、まずはその色水を全て捨ててしまわなければ、たとえその上から無色透明の水を注ぎ足してもその色が薄まるだけで決して無色透明にはならないとおっしゃいました。それまでそれぞれに経験を積んできていても、こと少林寺拳法に関しては誰もが初生の赤子である。ならば無駄な経験や知識は捨てて無心になって吸収しようと努めなければ、少林寺拳法の本質を掴むことができず、我流の大林寺や竹林寺になってしまうということです。
 最近は、新入社員でも自分の意見を上司に進言することが良しとされる風潮がありますが、これは大きな間違いです。確かに、組織が新鮮な外部の意見を広く聞くことは大切ですが、わがまま勝手な新入りの声に上司が左右されてはいけません。自分の意見が通らなければ会社を辞めるというような奴は、思い上がりもはなはだしい。道院で技術を習うのでも、何も言わずに言われたことを一生懸命真似してできるようになろうとしなければ、決して上達しませんよね。初心者のうちは、自分の意見など必要ないのです。
 子供も同じです。個性の重視などといって、子供が嫌がることはさせないというのは、もはや教育ではありません。とにかくはじめは他律的に教え込むしかないのです。「学ぶ《とは「真似ぶ《です。初心者のうちは、スポンジが水を吸収するように、とにかく素直に学ばなければならない時期なのです。

2、 初心者への指導

 そんな初心者を前に、私たち指導者はどういう指導を心がけたらよいのでしょうか。実は私はつい最近まで、指導法を間違っていました。自分自身の研究から導き出した理論を、理論のままで皆さんに教えようとしていました。理論で知るほうが汎用的に使えると考えたからなのですが、この教え方は間違いだったと最近気づきました。皆さんが初心者だとは言いませんが、失礼ながらまだまだです。きっちりとした技を使いこなせるようになるまでは、手足の使い方を十分に体にしみこませなければなりません。それぞれの動作の意味を知るよりも、その技ができるようになることが先決ですよね。
 開祖は、とても単純に動作を指導されていたそうです。その動作の意味は教えなくても、具体的にどう動いたらよいのかを簡潔に伝える。まるでリモートコントロールでもしているかのように、言葉で動きを伝えるときれいに技が完成する。初心者へはそんな指導が理想なのだと思います。

3、 自らの意見を持つ

 技が少しできるようになってくると、指導者の前で言われたとおりにやればうまくいくのに、相手が変わったり攻撃が変わったりするとうまくできないということに気がつきます。そうなってはじめて、自分なりに技を研究し分析することが大切になってきます。ここからが面白くなるんですよね。ところが、皆さんが研究したり分析したりする楽しさを、私は一方的に奪ってしまおうとしていたことに気がついたのです。「理屈を知れば早くうまくなれる《との親心でしたが、そんなことは余計なお世話で、ただ私がすべきことはすごい技を見せることと、その技をかけるための動きについて伝えることだけだったんですよね。
 それを受けて皆さんが、自分なりの考えを持つようになる。自ら考えて自分なりの意見を持つということが大切なのであって、人の意見を押し付けられてばかりでは決して成長できません。初心者のうちは自分の意見など持ってはいけませんが、いつまでも言われたことしか出来ないようでは、決してリーダーにはなれません。リーダーとしての大切な素養を磨く、道場はそんな修行の場であるべきですよね。

4、 結論を出す前に提案・相談・議論

 稽古の中で、こうやったらいいかなと思うことがありますよね。そんな時に、自分勝手にやってみるよりも、相対になっている相手とコミュニケーションをはかり相談しながら、議論しながら試してみたほうがいい練習になります。組手主体の真骨頂です。自分のやろうとしていることを相手に伝えないで勝手に試してみると、うまく技がかかればいいのですが痛みだけ与えてしまって失敗したときには、恨まれてしまいますよ。その後の練習がうまく行かなくなるばかりか、あいつとは一緒にやりたくないと思われてしまうかもしれません。
 何か物事を決めるとき、自分の頭だけで考えて結論を出してから人に話しをするというよりも、最終結論を出す前に、ある程度の形になったところで提案し、相談して、議論や試行錯誤の中から結論を導き出すという態度が、人生を上手に歩くコツかもしれません。自分の中で結論を出してから相談するという場合、たとえ相談した相手からどんな回答がかえってきても、たいていは先に出していた自分の結論を変えようとしないものです。うまく技がかからなくても、自分の間違いを認めようとせず、意固地になってしまうものですよね。

5、 全てを知ろうとするよりも誰に聞くべきかを知ろうとする

 そうやって意固地に自分の結論にこだわる間違いは、逆説的かもしれませんが、自分の結論に自信を持てない場合に犯してしまいやすいものです。もっと広い心で多くの人の意見を取り入れる。それが自分の成長のためでもあり、より良い人間関係を築くポイントでもあるのです。
 一生懸命に勉強して、多くを知ろうとする態度は素晴らしいものです。でも、どんなに努力しても自分の力は限られています。この世の中全てのことを知ろうとしても上可能なのです。ならば、努力すべき方向を変えなければなりません。全てのことを知ろうとするよりも、そのことを誰に聞くべきかを知ろうとするほうがよっぽど簡単であり効果的ですよね。いかに多くの素晴らしい縁を結ぶか。そのことに力を集中すべきです。もちろん、そんな素晴らしい縁を築くためには、自分なりの意見をきっちりと持っていることが絶対条件ですよ。自分の意見に自信があるからこそ、他人の意見を素直に聞くことができるのです。

6、 同志ととも

 開祖は、人との縁に幸せを感じる生き方をされました。そんな開祖によって開かれた金剛禅教団に生きる私たちは、厳しく自己確立に励みながら、利害を別にして尽くしあう同志とともに生き、成長して、喜びも悲しみも分け合う絆を築きたいですね。

 今まで、長い間毎月の布薩会で法話を行ってまいりましたが、これからしばらくの間は、教範と読本、それに僧階教本を基にした講義を中心に行うこととします。時には、それらの講義を行わずに法話をすることもありますが、毎月の定例的なお話は、法話よりも講義を中心に行います。
 開祖の志を、もう一度原点に返って勉強していきましょう。それに伴い、ウェブでの時事法談と題した道院長法話も、毎月の更新から上定期の更新に変更しますので、ご了承ください。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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