時 事 法 談 (82)

「創始60周年」

2007年1月4日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期) この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「創始60周年《と題してお話します。

1、 創始60周年のテーマ

 あけましておめでとうございます。雪のない穏やかなお正月ですね。
いよいよ、少林寺拳法創始60周年を迎えました。組織にとっての還暦です。原点にかえらなければなりません。そういう意味もこめて今年の年賀状を書きました。今まで研究してきた「開祖の技術《に引っ掛け、自ら戦術を考えて理想境建設に邁進する覚悟を述べたつもりです。
創始60周年のテーマが決まりました。
「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを ありがとう この生命 ありがとう あなたとの出会い □□□□□□□□□□□□□□□□□《
最後の部分には、自分自身のテーマを入れるようになっているそうです。

2、 30周年全国大会「開祖法話《

60周年を考える前に、原点をもう一度確認しておきましょう。創始30周年記念大会で、開祖が法話をされています。じっくりと咀嚼してください。(1977年11月「開祖法話《)・・・(略)・・・

3、 世界と日本の現状

 さて、あれから30年経ちました。少林寺拳法創始60周年です。今の世界や日本を見るためには、やはりアメリカの動きを考えないわけにはいきません。アメリカでは、ドルの基軸通貨を守るために仕掛けた戦争が一段落したところで政権交代となりますから、これからは武力によらない外交交渉でドルを必死に守りにかかるでしょう。今、ユーロ/ドルが上げています。先の事は誰にもわかりませんが、ユーロに対するドルは史上最安値を更新するかもしれません。このままでは、ユーロに基軸通貨を奪われかねません。そうなったら、アメリカが抱える莫大な借金を自分で返済しなければならなくなってしまうわけですから、国がつぶれてしまいます。それをアメリカが黙って許すはずはありません。政策的にあえてドル安を容認しているという見方もありますが、長い目で見てドル安がアメリカを利するとは考えにくいですよね。いずれにしてもこれからは、ドルを守るためにかなりえげつない外交手段を弄してくると思われます。日本も、親方アメリカのために、相当な犠牲を払わなければならなくなるでしょう。
 終戦直後から日本は、アメリカのために安くて良い物を生産し世界のお金を集めてきました。貿易立国だったんですよね。それができたのは、社会主義統制経済的な構造に支えられた日本独自の資本主義があったればこそでした。日本は世界で唯一成功した社会主義国家だとも言われていますよね。 でも、今アメリカから日本が求められているのは、物づくりではなく、カネ作りです。現代は、人類史上始めてのモノ余り時代です。需要と供給のバランスが逆転してしまったのです。アメリカにとっても、もはやモノはあまり必要ではなく、お金を効率よく増やすことが大事であり、日本はそのための投資先なのです。実際今の日本は、貿易立国ではない。国際収支の上では投資収益で生きているのです。アメリカからは、優秀なマネーメーカーが歓迎されリスクに見合ったリターンを得られない人や企業は見捨てられます。格差を生み出されるのが当たり前の時代になったのです。なぜならそれが自由経済のもとでの本当の資本主義だからです。日本は、統制経済から本物の市場主義経済体制にもとづく資本主義へと脱皮しなければならなくなってきたのです。もはやかつての常識は通用しません。それが、国家や民族の利害だけが優先する厳しい国際政治の現実なのです。

4、 力と愛の調和

 格差社会、これは平和で豊かな理想境とはまったく相容れない社会です。でも、それが現実です。いまさら日本だけがグローバルスタンダードを捨てて鎖国し、社会民主主義の道を歩むという選択肢はないのです。だとすれば、格差社会に反対するのではなく、その中からいかにして理想境を築き上げるかについて考えなければならないのではないでしょうか。今年の年賀状に私が書いたのは、そのことです。「人づくりによる国づくり《という開祖の戦略を実現するために、門信徒一人ひとりが自分自身の戦術を練り上げて実行していかなければ、今それを考えなければ、日本はつぶれてしまいます。そんな切実な危機感を持っています。
 開祖は、すべてのことが人によって行われるのならば、「全ては人の質にある《と明確に示されたではありませんか。理想境は制度によって作られるものではなく、人によって作られるのです。共産主義でもリーダーの質が高ければ素晴らしい理想境を実現できるでしょうし、資本主義でも、資本家の質が高ければ平和で人類皆豊かな理想の社会を実現することは可能です。富の再分配をきっちりとできれば、貧困問題も解決するでしょう。今は、モノの時代ではなくマネーの時代です。お金は力です。お金を持ったものが世界を制する時代なのです。だとすれば、理想境を築くのは簡単なことです。金を持つ者が徳ある者になれば良いだけです。逆も言えますよ。徳ある人が金を稼げばよいのです。まあ、実際には、どちらも茨の道ですけどね。でも、道ははっきりと見えている。
 ところで、多くの宗教は、「喜捨《を教条に取り入れています。キリスト教でも、富める者が救われるのは、ラクダが針の穴を通るよりも難しいけれども、喜捨によって財産を投げ打てば救いの道が開かれるといいます。そういう信仰に裏打ちされたモラルがあるから、資本主義でも社会が成り立つわけです。ところが日本はといえば、全く信仰心がない。モラルがないわけです。第一次大戦で漁夫の利を得た大正バブルを見ても昭和のバブルを見てもホリエモンを見ても、いつの世も日本の成金は、はしたない。日本が誇る恥の文化はあっても、欲の前にはそんな道徳など吹っ飛んでしまう。食っていけないという極限状況でもあるいは反対に欲にまみれた極限状況でも、どちらの場合においてももっと深いところで信念や使命感を持たなければ、「誇り高い生き方《を貫くことなどできないのです。 そういう意味で、なんとしても今の日本に必要なのは、正しい宗教観と信仰心、そして信仰にもとづいた信念や使命感です。しかも、その宗教は、理性的なものが望ましい。教条的な宗教では、権力者に利用され、いいように解釈されて、結局自分さえ良ければいいというものになってしまいかねません。豊かになればなるほど人は信仰を捨て、貧しい者だけが必死に祈る光景が世界中にあふれかえっているではありませんか。誤解を恐れずに言えば契約宗教は、都合のいいように契約を打ち切ることができるのです。でも仏教は、契約ではありません。三宝に帰依すると自ら決めたならば、大聖釈尊を信じ、ダーマを信じ、教団を信じるのみならず、「法灯明、自灯明《を求められます。つまり、仏教という教えの中で救いを得るためには、どこまでも修行して自己を確立し他のために役立つ人間になるしか方法がないのです。非情なまでに厳しい教えです。となれば、金を持とうが持つまいが、力があろうがなかろうが、徳ある生き方をすることしか選択肢がないのが仏教です。だから、極限状況でも誇り高く生きるための道として、開祖は仏教を取り入れられたのです。
 金剛禅は、力愛上二の哲学に貫かれています。だとすれば私たちの目指すべき道は、「愛《によって「金の力《を生かすことのできる調和のとれた人づくりと、そんな人たちが協力することによって成し遂げようとする理想境建設しかありません。少林寺拳法は、強い人が弱い人を背負って向かい合う姿を現した「行《なんですから。もちろん、金ばかりが力や強さではありませんよ。念のため。

5、 これからを歩んでいくあなたのテーマは?

 さて、創始60周年です。60周年のテーマの最後に、自分自身のテーマを書き込むことになっています。こんな時代にこれからを歩いていくあなたは、どんなテーマを掲げますか。今日、このテーマを完成させてください。急には無理でも、じっくりと考えてみてください。
ちなみに私は、こう考えました。
「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを ありがとう この生命  ありがとう あなたとの出会い 私は今ここで自分の使命を果たします《

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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