時 事 法 談 (79)

「経験を積んで想像力を磨こう」

2006年10月3日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期) この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「経験を積んで想像力を磨こう《と題してお話します。

1、 最近の事件事故とその根本的問題点

 ボランティアフェスティバル、今年は演武の出場拳士が少なかったのですが、何とか来場者にアピールできたと思っています。ありがとうございました。
フェスティバルの中で、ある方が、最近の事件事故のことを取り上げて挨拶されていました。その方は、「毎日のように悲惨な事件や事故が報道されている中で、我々がそのニュースに触れたとき、何も感じなくなってしまうことが一番恐ろしい。《とおっしゃっていました。確かに、実際の事件や事故とは関係の無い第三者であるからといって、全く他人事だと感じてしまうようではあまりにも感情が無さ過ぎますよね。でも、この方は事件や事故を起こす人と自分は別の人種だと考えているのではないかと、私は穿ってみてしまいました。他でもないこの方自身が、ニュースを第三者的に見ているように感じたのです。最近のニュースはあまりにひどいことばかりで、私たちの想像をはるかに超えているようでもありますが、ごく普通の人が罪を犯してしまうという認識が無ければ、より良く生きるために我々が修行することの意義がなくなってしまいます。普通の人は、普通に生きていれば犯罪者にならないのでしょうか。犯罪者は生まれながらにして悪人なのでしょうか。誰でも善いことばかりでなく悪いことをもしてしまうものです。 だからこそ私たちは、「全て悪しきことをなさず善きことを実践し自己の心を浄《めるために修行しているんですよね。
今日は、達磨祭です。先ほど法要を行いましたが、釈尊、祖師達磨、そして開祖から脈々と伝えられてきた自己確立の修行の道を、しっかりと踏みしめて生きていきましょうね。
 ところで、皆さんは最近の事件や飲酒運転による事故などについて、なぜこんなに続くのだと思いますか。私は、想像力の欠如だと考えています。自分の行動がどんな結果をもたらすのか、それを想像できないのだと思うのです。

2、 想像・共感・行動

 以前法話の中で、「想像し共感して行動しよう《と呼びかけました。【houwa-64.html】他人の思いを自らの経験に照らして想像し、その人に共感することが大切であり、共感したらその気持ちで行動する。そんな生き方が自他共楽だよって話しました。

3、 想像と妄想の違い

 物事を想像する。これは簡単なようで難しいことです。誰でも妄想はできます。でも想像はとても難しい。人は恋をすると妄想するものです。「自分が彼女のことを好きだから、彼女も自分のことを思ってくれている。だから自分のすることを彼女は喜んでいる。彼女は自分を待っている。・・・《ストーカー行為は、恋する人なら誰でもやりかねない危ういものです。そのとき逆に、「この思いは、もしかしたら自分だけの妄想かもしれない。彼女は自分のことを嫌っている。・・・《そんな風に考え出すと、今度は被害妄想になってしまいます。妄想というものは、現実を見ずに、自分だけの世界で勝手に思いを完結させることによって生まれます。それに対して想像は、現実をしっかり把握したうえで、その現実に対して自分の中で筋道を立てた検証を行うことによって生み出されるものです。

4、 経験こそが想像力を高める

 物事を見たときに、その原因や縁由あるいはその先に起こるであろう結末のいくつかのシナリオまで含めて、自分の中で筋道を立てて整理できる力が必要です。それこそが想像力です。この力は、経験によって高められていきます。いろいろな経験を積んだ人はそれだけ想像する幅が広くなりますし、正確度が増して行きます。
高級ホテルなどのサービスは、顧客に満足を与えます。それは、顧客であるその人の思いを想像してサービスした結果、その顧客の期待を超えたものが生み出されているからです。さまざまなシチュエーションを経験してきたベテランのホテルマンだからこそなせる業ですよね。

5、 体験を経験に昇華させる

 ところが、人は「体験《しただけでは想像力が高まりません。技術を考えて見ましょう。何回やってもうまくできない技はありませんか。体験だけは人一倊あるのに、全然うまくいかない。うまくできたところが想像もつかない。日常生活には、そんなことがあふれていませんか。毎日毎日顧客と向き合いサービスをし続けていればベテランにはなれます。でも、ろくなサービスができない。そんなホテルマンは五万といます。何度も同じ失敗を繰り返す。それは、失敗を活かせていないとよくいわれますが、実は、失敗の体験を経験にまで昇華させていないからそうなってしまうのです。要するに考えていない、反省していないのです。体験は、考え反省して初めて汎用的な経験になります。技術だってそうです。どうしてうまく掛からないのか、どうしたら投げられるか。そんなことを考え抜いたら、きっとうまくなれるはずです。
 飲酒運転を考えて見ましょう。これだけ連日報道されていても、「飲んでも乗る《という人が後を立ちません。これは、今までの体験があるからです。いままで危険な目にあったり捕まったりしていないと、飲んでも大丈夫という間違った想像、否、妄想をしてしまうのです。飲んでも無事に帰ることができたという体験をしたときに、考え反省をしていれば、無事に着いたのはたまたま運が良かっただけだということに気がつきます。するとこの体験が経験にまで高まるのです。そんな経験をすれば、飲んで乗ろうなどとは考えなくなります。なぜなら、飲んだら恐ろしいことになるということが容易に想像できるからです。体験を経験にまで昇華させる。それによって始めて正しい想像ができるようになるのです。
 最近学校では、体験活動花盛りです。昔の日本は、こんなときにはこうするものだとか、そんなときにはこうしなければいけないという、先人の知恵が体験と同時に伝えられてきましたから、体験がそのまま経験にまで高められていましたが、今の体験活動の多くは、下準備も無いままに体験だけして、しかもそれを反省し経験に高めることもあまりしないようです。子供たちが、想像する種になる経験を積んでいないということを、とても心配しています。

6、 想像したらリスクをカバーする

 さて、経験を元に物事を想像したら、良くない結果をもたらしそうなことを全てカバーしていくことが大切です。敵と向かい合ったときに、順突が出てきそうだと想像したら、それにはどうやって対処するかを決めるのです。こうしておけば安心だと思えたら、また他の可能性を想像します。そのリスクへの対処法も考え準備します。そうやって全てのリスクをカバーしたら、もう危険はありません。よい結果だけが想像できるようになりますよね。これこそが法形です。

7、 カバーされたリスクを想像しないことが平常心を身につけるコツ

 修行の重要な目的の一つが、平常心を養うことです。どんなときにも平常心でいられたら素晴らしいですよね。私、今日30年ぶりくらいに歯医者へ行きました。そこであのキーンっていう音が聞こえてきたら、汗が出てきました。平常心も何もあったものじゃないですよ。でも30年間の技術進歩はすごいですよね。何も痛くない。緊張していた自分がおかしくなりました。なんで緊張したかといえば、痛い思いをさせられるという妄想と、その痛みから逃れる方法つまりリスクをカバーする手段が無かったからです。悪い想像ばかりが膨らむんですよ。でも、今日の体験から、痛みに対しては歯医者さんの技術によってカバーされたという経験が生まれました。それなら、次の治療のときには、もう、痛みを想像してはいけないのです。それが平常心を身につけるコツです。ただ、私はまだ痛みの妄想から逃れられずにまた緊張してしまいそうな気がします。修行が足りないですね。
 カバーされたリスクをもうそれ以上想像しなければ、あとは良い結果を出すために努力するだけです。敵の攻撃に対して、正確に反撃を加え投げ飛ばすことができる技術さえあれば、完璧ですよね。

8、 日々経験を積み重ね自他共楽に向けて想像し共感し行動しよう

 事故について想像してみましょう。今までの経験から、酒を飲んだら危ない、スピードを出したら危ない、こんな細道は危険だ。事故を起こしたら被害者とその家族、自分と自分の家族は滅茶苦茶になる。そんなことを想像して、「飲んだら乗らない《、「スピードは控えめに《、「飛び出しに備えて《、・・・というリスクカバーをして車に乗れば、安心して便利に使えるではありませんか。勝手な妄想で、自分は罪を犯したやつらとは別の人種だから、酒を飲んでも車を自由に操れるなどと思い込んではいけませんよね。
 私たちは、日々経験を積み重ねながら、自他共楽に向け、想像し共感して行動していきましょう。それこそが修行なのですから。そして、そんな生き方を子供たちにも伝えてください。それが我々の使命だと考えています。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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