時 事 法 談 (75)

「原点を知ろう識」

2006年6月1日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期) この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「修行の順序《と題してお話します。

1、 修行の心得

少林寺拳法の修行にあたり、開祖は、修行の心得を8つにまとめて示されました。ご存知のとおり、「修行目的の確立、修行の順序、基本を学ぶ、理を知る、数をかける、修行を片寄らせない、体力に応じて修行する、永続して行う《です。少林寺拳法読本に解説がありますので、一度読んでみましょう。(略)
 さてこれら8つは、どれをとってもとても深い意味がありますが、今日はそのうちの「修行の順序《について、少し突っ込んでお話しをしたいと思います。

2、 順序が違う

中国の禅宗は、頓悟を建て前とする南禅と、漸々修学を建て前とする北禅に分けられますが、金剛禅はいうまでもなく北禅の流れを汲んでいます。ですから、一段一段順序正しく修行していくことがとても大切なんですよね。
 ところが、この順序正しくというのが実はとても難しいことなのです。私は、小学校6年で入門し、6級から、学年の関係でちょっと飛んで、3級、2級、・・・と昇級昇段してきました。この点については紛れもなく順序だてて進んできたのですが、技術の修得については、何もわかっていなかった、できていなかった、最近そう気づかされました。きっちりとできているつもりだったのに、実際には何もわかっていなかった。自分ができていない中で指導する事の辛さを身に沁みて感じました。柔法理論を考え始めてから今まで、皆さんに対して一貫した指導ができなかったことを申し訳なく思っています。これからは大丈夫ですけどね。こと技術の修得に関しては、私は順序を間違えていたのです。
 いいえ、技術ばかりではありません。実は私、先月末でライオンズクラブを退会しました。本来ライオンズクラブなどは、社会的経済的に地位を確立した人が入るべきところだと思いますが、ご縁を頂き長い間在籍させていただきました。ところが、時間的な自由や経済的な自由がない中でライオンとして奉仕活動をすることには、どうしても無理があったのです。仕事は部下に任せて奉仕活動に馳せ参じ、必要ならば100万でも200万でもポンと現金を差し出せる、そんな力があって初めて立派なライオンといえるのだと思いますが、今の私にはそんな力はありません。これも、順序が違っていたのです。

3、 修行の三要

少林寺拳法には、拳の三要という教えがありますね。まず正しい技を習得し、その技を効果的に使う術を学び、戦略を立てられるように修行するわけです。また、略は目的であり、その目的に沿った手段である術を決め、具体的な技として行動していくという運用の要諦についても拳の三要で教えられます。
 私は、少林寺拳法の修行においても三要があると考えています。力愛上二、自己確立、自他共楽の3つです。これらの3つは、とても面白い関係にあります。皆さんは、3つの関係をどのように整理されていますか。実は、技術略そのものなのです。金剛禅の目的は、平和で豊かな理想境建設ですね。自分も他人も分け隔てなく幸せな世界をつくる。そう、自他共楽こそが目的、つまり略なんです。この自他共楽の世界は、私たち自力宗の門信徒が、協力しながら自らの力で築こうとしています。他人任せではなく、自分自身が徳ある人間になることによって、幸せな理想の境地を築こうとしているんです。自他共楽にいたるための私たちがとるべき術は、自己確立なのです。そしてどんな自己を確立するかといえば、力愛上二です。慈悲心に満ち溢れ、自信と勇気と正義感と行動力をもった強くてやさしくて賢い人になろうというわけです。ね、三要でしょう。
 略、つまり目的である自他共楽は、絶対に忘れてはいけない踏み外してはいけない大原則ですが、力愛上二の自己を確立しないままに、他のために尽くそうとしても結局共倒れになりかねません。ここに順序正しく修行する事の意義があるのです。何をおいてもまずは自己確立、強くてやさしくて賢い人にならなければなりません。もちろん自己確立に完成はありません。でも、必要最低限の強さや優しさそして賢さがなければ、他人の幸せはおろか自分一人の幸せさえも築くことができないのです。

4、 修行は人生のインフラ作り

 力愛上二を体現する自己を確立する事、それは人生のインフラ作りといえます。水道、電気、ガスなどの社会基盤が確立されてはじめて文化的な生活を送ることができるのと同じように、強くて優しくて賢い自分を確立する事ができてはじめて、自分の幸せと他人の幸せを追求するために行動できるのです。最初は頼りなくてもいいのです。インフラが完璧な町などないのと同じで、完璧に確立された自己などありえないのですから、少しずつでいいのです。身の丈にあった街づくり、身の丈にあった自他共楽があるはずです。例えば奉仕活動一つをとってみても、ビル・ゲイツのように規模の大きなことが出来る人もいれば、100円程度の赤い羽根募金しかできない人もいます。インドネシアの被災地へ飛んで行って医療活動ができる人もいれば、転びそうになったおばあさんを抱きかかえる事しかできない人もいます。それぞれに力の差はあっても、思いは同じはずです。自他共楽の思いを胸に、身の丈にあった行動をしていくことが大切です。焦って大きな事をしようとライオンズクラブに籍を置いていた自分は、身の程知らずだったのです。 まずは他人のために尽くせる自分を確立しながら身の丈にあった活動をしていく、そこからはじめなければいけなかったのです。
そうは言っても、力は無いよりある方がいいに決まっています。慈悲心も、深ければ深いほどいいはずです。われわれ金剛禅門信徒にとってそういう自己を確立する基本は、あくまで道場での易筋行なのです。順序を間違えてはいけませんよ。まずは何をおいても易筋行をすることが修行の第一歩であり、インフラ作りそのものなのです。着実にインフラを整備していくこと、その作業を休まず続ける事が大事なのです。
インフラを築きながら、肉付けをしていく。修行の順序はそうでなければなりません。確かに、行住坐臥全てが修行です。でも、開祖が金剛禅の主たる行として易筋行を位置づけられたからには、この行に励み続ける事が信徒の責務です。その行を正しく行う事によって始めて、開祖の思いが見えてくるのであり、自己確立に近づけるのだと信じて、ひたすら修行に励まなければなりません。なぜなら、それが宗教だからです。クリスチャンは日曜日に教会へ行きます。イスラム教徒は、毎日の礼拝を欠かしません。金剛禅門信徒ならば、易筋行を継続して行うのが当たり前でありもっとも大切な事なのです。
少林寺拳法は、それ自体とても楽しいものです。でも、楽しいからやるというレベルから一歩抜け出して、自己を確立するために行じるというレベルに向かって欲しいと願います。そんな目的意識を持って行うと、技術をとおして見えるもののレベルも変わってきます。易筋行の修行が、生きていく上で欠かせないものになってくるはずです。人生のインフラを築く道が修行ならば、石にかじりついてでもその山を登り続けるべきだと私は考えています。建物を建てる場合、基礎や躯体作りをしっかりしなければ、どんなにデザインに凝ったとしても全く意味がないことは構造計算事件からもはっきりしていますよね。拳の三訓に言われるとおり、「守破離《なのです。まずは基礎をきっちりとかためなければ先には進めません。易筋行に励むことは、金剛禅門信徒にとっての基礎なのです。人生を生きる上で最低限修めるべき行なのです。趣味やオプションのレベルとしてではなくインフラとして取り組まなければなりません。オプションはやらないという選択ができますが、インフラとしての修行にその選択肢はありません。金剛禅門信徒として生きると決めた以上は、如何なる艱苦にあっても決して挫折しトはならないのです。

5、 布教活動に邁進

 さて、それはともかく、本当に参坐する人が減ってしまいました。まあ、お陰で私自身が修行の順序を正しく組みなおし、技術に自信をもてるようになりましたけどね。これで私もようやくある程度のインフラができてきましたので、いよいよ布教活動に邁進します。社会的な自由や経済的な自由を築くまでにはまだ時間がかかりますが、道場の中で皆さんを指導させていただく程度には確立できてきたと思います。順序からいって、もう自分のことばかりに構っている場合ではなくなりました。上求菩提、下化衆生です。元気な大人を集めて、楽しい少林寺拳法を教え、少しずつ洗脳していきますよ。楽しんでやっているうちにいつの間にか、自己確立のために行じるというレベルにまで高めていく、そんな指導を目指していきますので、皆さんも入門者を増やす活動にご協力をお願いしますね。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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