時 事 法 談 (73)

「視野を広げよう」

2006年4月4日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期) この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「柔法理論・・・これからの展開《と題してお話します。

1、 「柔法理論《確立の経緯

 お陰様で「バイオメカニクスによる柔法理論《は、4月1日に理論的完成をみました。本当に長い間掛かりましたが、皆さんのお陰です。心からお礼申し上げます。
そもそも、この理論の完成に至るまでどんな道筋をたどってきたか、最初にお話しておこうと思います。 開祖が少林寺拳法を創始されてから、多くの先生方がその教えと技法と組織を受け継いで、私たちに指導してくださいました。私は少林寺拳法が爆発的に発展した後の入門ですが、小手先の技術にこだわり過ぎて、逆小手で相手を倒す事もままならないような拳士でした。痛いけれど倒れられない、そんな掛け方ばかりしていたように思います。その後、大学に進み学連の人間として、春夏の合宿期間中はずっと本部に入り浸っていたのですが、折しも、本部では技術の科学的研究が進んでいました。小手先の技術よりも攻者の重心を操作する事によって簡単に投げたり倒したりできる、そんな技術が研究され始めていたのです。合宿の日々の日程が終わった夜中に、本部の職員から直接そのコツを習ったものでした。
道院を開いて少し経つと、50周年事業の目玉である「少林寺拳法エキスパートシステム《が出来上がりました。それまで断片的に教わってきたものが、系統立てて整理され、大変わかりやすくなっていて、しかも実際にやってみるとうまくいく、そんな中で、我ながら自分の技術が上達したものだと自惚れていました。
その後、仕事の関係でミシガン州立大学のオステオパシー医科大学でワークショップを受講しました。1998年の事です。そこで、運命的な理論との出会いがありました。椎骨のバイオメカニクスです。大学では当然治療のための理論として学理と技術を習ったわけですが、私はこのとき少林寺拳法の技術にも応用できると感じました。
日本に帰ってからは、その理論をどうやって応用したら良いか、いろいろと考え続けました。けれども、成果が出ないまま、年月だけが過ぎていきました。
そんなある日、平泉さんから「少林寺拳法の技で本当に投げられるのだろうか《と疑問を投げかけられました。実際、駿ちゃんを投げようとしても、どうしてもうまく投げ飛ばす事ができません。自分の力上足なのか、あるいは駿ちゃんの体が例外的なのか、いろいろと思い悩みました。それからです、本腰を入れて研究を始めたのは。
またその頃、秋田十文字スポーツ少年団の金子先生が独自の理論を編み出していました。私はずっと脊椎にこだわって考え続けていたのですが、金子先生は股関節を中心に理論を組み立てていました。今考えると、この理論は私に一つのきっかけを与えてくれました。より広い視野で物事を見ることができるようになったのです。
去年のゴールデンウィークに、ミシガン州立大学の上級者向けワークショップが東京でありました。それに出席した後、ある日突然、一つの理論が頭に浮かびました。結果的にはその理論は間違いだったのですが、そこからある種芋づる式に理論が発展していったのです。稽古の日には、毎回必ず新しい考え方にもとづいて研究しましたよね。
今回まとめる事ができたこの「柔法理論《は、平泉さんと、作園くん、そして駿ちゃんとの共同研究です。皆さんには本当に感謝しています。ありがとうございました。

2、 これからの修練

 さて、理論の構築はできました。これからは、普段お話しているように、「知る、わかる、できる、身につく《という修練の段階をしっかり踏んで、お互い自分のものにしていきましょうね。
 開祖は、教範の初版本の中で「拳法修行の要諦《として次のように述べられています。「理を先に技を次に学ぶ事 拳法の如く、剛柔整六百数十の技法を有する、系統立った大組織を学ぶのに、いきなり技に組みついたのでは、とうていその全部をこなすことは、上可能に近いことである。故にその基礎になっている諸種の理を先ず学び、用法を会得し、それから手足の演練をすれば、上達が早いのである。《と。まさに、今私たちは、ようやくこれをしようとしているのです。理論をしっかりと頭に入れて、その理屈どおりに体が動くよう修練していく事が大切ですね。
 また同時に開祖は、少林寺拳法が護身術として大きな価値を持つ理由を、六点挙げています。「一、心力を本とし体力を末としていること。二、守ることが主であること。三、学理の応用により、弱い力で強敵を苦もなく制することができること。四、老若男女を問わず誰でも習得し得ること。五、どのような時どのような場所に於いてもすぐ役に立つこと。六、短い期間の修行で大なる効果が得られること。《これらの中で、特に六番目の、短期間で効果が出るという点は驚きですよね。少林寺拳法は、他の武道よりも簡単に習得できるとおっしゃっていたのです。最近では、少林寺拳法は難しくて修得に時間が掛かるというのが一般的な見方ですが、初期の頃開祖は、簡単さをウリにされていたのです。でも、考えてもみてください。「柔法理論《を知ってしまえば、技がとっても簡単に見えてきませんか。少なくとも私は、とてもシンプルに見えるようになりました。「理を先に技を次に学ぶ事《の教えを守れば、とっても簡単に修得できるんですよ。あとは、いかにして単なる武道やスポーツから抜け出し、宗門の行として修行するかだけなのですが、これにしても、組手主体の修行形態からすれば、ごく自然に易筋行としてのあり方を追求する事ができると思います。
 つまり、理論を知ったこの後の修行方法は、互いに誘導しあい、もっとも合理的に技を掛けるための体の運用を組手主体でつかんでいく事だと思います。それによって、ごく自然に自己確立と自他共楽の修行ができるのだと確信しています。一日も早く、確実に、合理的な技を掛けられるようになることを目指して協力し合いましょうね。そして、いつでも対応できるように、本当の意味で身につくまで数を掛けていきましょう。

3、 これからの指導

 さて、後進への指導についてですが、論文の中にも書きましたけれども、投げ技をするときに使う掛け方は、基本が確実にできる人そして身体がある程度出来上がった人に教えるべきだと思います。龍王拳のポイントを頭と身体で会得していないうちに教えると、必ず基本を離れていってしまいます。また、小学生を床に叩きつけるのは危険すぎます。ですから、一般拳士は初段になるまで、また少年部の拳士は中学初段になるまでは、投げ技についても倒し技として教えていきます。指導に当たっては、ご協力ください。
 その代わり、一般拳士は有段者になったら、また小学生は中学初段になったら、一刻も早く投げ技としてのやり方を教えていきましょう。指導方針をそのように統一しますので、混乱のないようにお願いしますね。

4、 普及の意義と目的

 私は、このあと論文を発表するつもりです。何故そうするのかお分かりですか。今回発見した技の掛け方は、はっきり言って現在の少林寺拳法から見ると非常識です。このままだと私たちだけが異端者なのです。一人でも多くの拳士が、開祖の技を再演できるようにするためにも、そしてまた、私たちが異端者であり続けないためにも、何としてもこれを普及させなければいけないと考えています。もっと端的にいえば、たとえば、逆小手や押小手をこの掛け方でとれば、試験には通りません。そういうことです。

5、 普及の方法(討論)

 どうやって普及させようかと今考えているのは、論文の発表と、テキストをもとにした技術研修です。でも、何よりも先に、私たち三ノ丸の有段者全員が正しくできるようになることが必要ですけどね。その上で、どういう方法で普及させたらよいか、皆さんの意見をお聞かせください。(略)

6、 論文の推敲

 では、これから論文の推敲をしていきたいと思います。よろしくお願いします。(略)

7、 法形への適用(表)作成

 最後に、この理論を一つ一つの法形に適用させなければなりませんので、表を作りました。これをもとに、少し議論していきましょう。(略)
ありがとうございました。これからしっかり稽古して、開祖の技術を後世に伝えていきましょうね。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

 ご意見・ご感想は大館三ノ丸道院長、または大館三ノ丸支部ホームページの「拳士のひろば《へお願いします。