時 事 法 談 (66)

「諦めない生き方」

2005年9月1日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「諦めない生き方《についてお話します。

1、 四諦

 突然ですが仏教と聞いて、皆さんはどんな事をイメージしますか。ここには金剛禅の僧階をお持ちの方もいますし、僧籍には無くても有段者になれば仏教の基礎的なことは勉強してきているでしょうから、門信徒の皆さんが持つ仏教のイメージは一般的な日本人の感覚とは違うと思います。それでもいわゆる寺院仏教には暗さが付きまといますよね。それは葬式仏教だからと言う理由ばかりでなく、経典にある文字にもその理由があると思います。仏教は諦めを説く教えであると聞いたことがありませんか。「四諦・八正道《これこそが仏教です。諦めるという文字が使われていますし、悟りとは執着を断つ事であるとも教えられていますから、何事も簡単に諦める事が大事だと教えているのかと錯覚しやすいですね。でも、四諦の諦は、明らかにするという意味の諦めなのです。仏教は難しいですが、とても前向きで明るい教えなんですよ。今日は、仏教の諦めとは少し意味が違いますが、「諦める事をやめよう《というお話しをしようと思います。

2、 やらない前から諦めるな

 先日、「24時間テレビ《をやっていましたね。リアルタイムでは見なかったのですが、一昨日のニュース番組で、その時の100キロマラソンを特集し放送していたのを見ました。59歳の弁護士が24時間かけて100キロを走ったドキュメントでした。24時間寝ないだけでも大変なのに、100キロをあの年齢で走り抜くということに感動を覚えました。またそれにも増して一緒に走った57歳のトレーナーの姿にも感動しましたね。彼らが走ったということは、その前に決断があったはずです。「走る《か「走らない《かです。普通なら、無謀とも思えることですから、「走らない《決断をするのが当たり前かもしれません。にもかかわらず、彼らは「走る《決断をしました。この決断が、何よりもすごい事だと思います。
 乱捕りを道場でやってみると、どうしても敵わない、あいつとだけはやりたくないという相手がでてきます。そんな時、自ら進んで「お願いします《と合掌礼できるでしょうか。まだやらないうちから、「もうだめだ《、「どうせやってもやられるだけだ《と諦めてしまいませんか。
 去年のブロック大会では、みんなの演武の成績はひどいものでした。でも、努力して練習してきたから、今年の県大会ではそれなりの成績が取れましたよね。はなから諦めてしまわなかった、やらない先から諦めなかったから成績も伸びたのです。

3、 "Hobbled Elephant" Syndrome

 皆さんは、"Hobbled Elephant" Syndromeという言葉を聞いたことがありますか。日本語にするなら「足枷象さん症候群《とか、「障害物に囲まれた象さん症候群《といったところです。昔のインドで、象を飼いならす方法として使われていたそうですが、今ではサーカスも利用しています。まず赤ちゃん象を捕まえてきたとき、強い竹でできた檻に閉じ込めます。その象さんは逃げようとして必死に体当たりをするのですが、竹が強いので檻を破って逃げることができません。そのうち、象さんは体当たりする事をやめてしまうそうです。象は頭がいいから無駄だということに気がつくんですね。ところが、いったんそうなると、今度は杭にロープを張っただけのサークルの中に入れても、決して逃げようとしないそうです。そのロープをひょいっと跨げば逃げられるのにですよ。
 人間も似たようなところがあります。自分で勝手に逃げられない檻を作って、そこから一歩を踏み出そうとしない。すぐに諦めてしまう生き方です。笑うかもしれませんが、ほとんどの人はそんな檻を作っています。メンタルブロックともいわれますが、勝手な思い込みで自分の無限の可能性を無にしてしまっているのです。

4、 郵政、9・11、イラク、ガザ、・・・

 それにひきかえ、政治家たちはすごいですね。いよいよ選挙が始まりました。そもそも、郵政民営化法案が参議院で否決されたとき、自らの信念を諦めなかった小泉総理の決断でこの選挙は始まりました。政治家は、さすがに諦めない人が多いようで、9・11から始まったテロとの戦争を指揮しているどこぞの大統領も、ガザ地区からの撤退が完了したとはいえ土地の取り合いをしている首脳同士も、みんな諦めない人たちです。成功者と落伊者の違いは、諦めずに志を実現し続けられるかどうかにあるわけですから、当然世界の指導者層は、諦めず必死にしがみついて自らの志を実現させようと努力します。彼らは、"Hobbled Elephant" Syndoromeに罹らないように必死で頑張っているんでしょうね。
 そうは言っても、小泉総理が諦めなかった事を「評価する《か「評価しない《か、あるいは世界の指導者が諦めずに追い求めているものは、「平和への道《なのか「私利私欲《なのか、そういうことについては私たちもじっくりと考えなければなりません。

5、 できると信じて努力する

 イギリスのWalter Bagehotは、「The greatest pleasure in life is doing what people say you cannot do.《と言いました。「君にはできないと世間が言うことをするのが人生の大きな喜びである《そんな意味です。確かにどんな事であれ、他人に無理だと言われるほどの事を諦めずにやり遂げられれば深い満足が得られます。でも、本当に大切なのは、諦めずにできると信じて努力する、その「方向《なのです。私たち金剛禅門信徒が目指すべきは、平和で豊かな理想境建設への道であることだけは、決して忘れてはいけませんよ。
 有力者たちの多くは、自らの利益を最優先に考えているかもしれません。とはいえ、現代の一般的な社会では、共生の理念が当たり前になってきています。平和で豊かな理想社会の実現に向けた方向付けは、多くの人の志の中で、ごく当たり前になされるようになってきたのです。それでも、現実にはほとんどの人が結果的に「自分さえ良ければ《とか、「自分たちさえ良ければそれでいい《という考えにおかされ、間違った方向に歩みを進めてしまいます。先月もお話しましたが、自他共楽の理想を見失ってしまう最大の理由は、責任感の欠如です。責任ある行動をとることが自己確立そのものですから、金剛禅の門信徒は、自己確立に励み決して諦めずに道を誤ることなく理想境に向けて歩み続けなければならないのです。
 この諦めない生き方を貫くための修行の一つが鎮魂行です。中でも「調息法《と「思念《がとても大事になってきます。「大宇宙の大精気、我が体中に入る《と思念しながら息を吸い、気を丹田に鎮めた上で、「ダーマの徳性、我に発する《と思念しながら息を吐く。そうやってダーマ信仰を確立し自らの可能性を信じるのです。必ずできると信じて努力し続ける、そういう諦めない生き方を体に滲みこませる修行です。拳禅一如はお題目ではありません。きっちりと鎮魂行にも取り組んでくださいね。

6、 演習:マインドマップをつくろう

 それではこれから、それぞれが自分の人生をじっくりと考えてみる時間にします。自分にとって究極の人生の目的とは何なのか、考えてみてください。「どんな思いで死にたいか、どんな風に思われて死にたいか《、それこそが人生の目的です。生まれてきた以上死ぬことでゴールします。そのゴールをどこに思い描くか、どんな風に人生の道を歩いていくか。そう考えると、人生究極の目的は死ぬときに達成されなければなりませんよね。そしてその目的を達成するためにはどんな生活をするか、どんな仕事をするのか、どんな奉仕をしていくのか、いろいろと深く考えてみてください。金剛禅の目的と自分の人生の目的がリンクしているか、しっかりと検証してみてください。皆さんには、マインドマップをつくってもらいます。
 マインドマップとは、イギリスのTony Buzanが開発した能力開発ツールのひとつで、頭の中で考えている事を紙に書き出していく方法です。でも、そういうやり方自体は、昔からいろいろな人が実践していたようで、実際私もマインドマップを知らなかった学生の頃から、似たような方法でメモをとりながら仲間と一緒にあるいは自分ひとりでアイディアをまとめる作業などをしてきました。今は、MindManagerというパソコンのソフトを利用しています。これはなかなかの優れものですよ。皆さんにもお勧めします。ただ、日本語のソフトは非常に値段が高いので、英語版の利用を考えた方がいいと思います。私もディスカウントされた英語版を使っています。
 さて、それでは私がMindManagerでつくったサンプルを参考にして皆さん自身の人生をマインドマップに書いてみてください。真ん中に自分の人生の目的。そこに到るためには、何をしなければいけないのか。線を引っ張ってつないでいきます。マインドマップには、これから述べるいくつかのルールがあります。でもあまりそれにこだわらず、思いつくままに書いてみてください。主なルールは次のとおりです。「用紙は横長《、「用紙の中心から《、「テーマはイメージで《、「1ブランチに1ワード《、「強調する《、「関連づける《、「独自のスタイル《、「創造的に《、そして「楽しむこと《それでは、はじめてください。

(演習)

 今作っている「人生のマインドマップ《は、高だか30分でできるものではないですよね。究極の目的を決めることができた人はある程度ペンが進んだようですが、目的を決められなかった人は深い沈黙の世界にいましたね。ペンが進んだ人でも、まだまだ時間が足りないはずです。目的を決めかねている人にはヒントを差し上げます。もし目的を大学に入ることや就職する事に設定したとすると、それを達成した後で5月病に罹ってしまうかもしれません。究極の目的は死ぬときにどんな思いでいたいか、人からどんな風に思われて死にたいか、そう考える事で見えてくるものです。ですから決して大学に入ることが目的にはなりませんよね。今晩帰ってから、人生の目的をしっかり考え、そこに到る道をじっくり計画してください。目的を決めたらそれを見失わずに諦めないで努力し続けることで、必ずその目的を達成できるはずです。皆さんが今日作りかけたマインドマップは死ぬまで完成しません。一生かけて常にアップデートしつつ、お互い諦めない生き方を実践していきましょう。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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