時 事 法 談 (62)

「国際情勢と我々のあり方について」

2005年5月10日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「組織の常識について《お話します。

1、 最近の事件事故

 毎日毎日、嫌な事件や悲惨な事故が相次いでいますね。日本の社会が多様な価値観を認める方向にばかり目を向けてきて、辛抱をしたり当たり前のことを当たり前にしたりといったことを教えてこなかったつけが回ってきたように感じてしまうのは、私ばかりではないと思います。ここでもう一度教育についてみんなが見直さなければならないのではないでしょうか。そしてまた、そんな中で一つ考えさせられたのが、JR西日本の企業風土と、現場近くにあってすぐに全社挙げて救助に走った中小企業の組織との違いでした。このことについては、後でお話します。

2、 今回の東京出張

 ところでこのゴールデンウィーク、私は、東京に出張しておりました。以前短期留学したアメリカの大学が日本でワークショップを行ったので、それを受講してきたのですが、ついでに何人かの少林寺拳法関係者などにも会ってきました。関東学生大会にも行って、関東学生OB会連合会のお歴々とも久しぶりにお会いしましたし、学連の先輩や後輩にも会いました。またわざわざ三重から親友の道院長が出てきたので、ホテルのフレンチレストランで、じっくり話しもしました。彼とは、この組織の事や人生の事など幅広く議論を交わしました。
また、大学の恩師とも会いました。この先生は、法政大学経営学部教授で、3月に確か15冊目の本を出版されたんです。「5月の終わりに出版記念パーティーを開催する《とゼミの先輩から連絡があったのですが、出席できないのでこの機会にお招きして昼食をご一緒させていただきました。本当は夜じっくりと飲みながらお話を聞きたかったのですが、今回のワークショップが大変タイトなスケジュールで、ホテルではじっくり勉強しなければならなかったので、ランチだけで失礼したわけです。

3、 「組織を変える<常識>《

 先生の著書は、とても考えさせられる有意義な本ですので、皆さんにも推薦します。「組織を変える<常識>《遠田雄志著 中公新書刊です(AMAZONでの購入はこちらからどうぞ。http://tinyurl.com/7glsx )。簡単に内容を理解していただくために、表紙に付けられたコメントを紹介します。「どの組織にも、その組織特有の認識の枠組みがある。これが「組織の常識《で、意思決定や問題解決などは全てこれが基礎となっている。しかし、この常識は古びたり現実とズレたりしがちである。どうすれば古い常識を捨て去り、新しい常識を身につけることができるか。組織に潜む「未練のハードル《「臆病のハードル《をもとに組織を四つに分類し、どのような組織が望ましいか、組織を変えるためには何が必要かを解明する。《この本は、そんな内容です。経営学の学術的な書籍ですので、少し難しい面もありますが、今をとらえる目を養うと言う意味で、とても有意義ですので、是非皆さんにも読んでもらいたいと思います。

4、 少林寺拳法の組織

 その学術理論からすると、全ての組織には「常識《があることになります。これは、家庭から国際社会まで、どんな組織にも当てはまるもので、この常識を共有しないものは、組織とは呼べません。
 では、翻って少林寺拳法はどうでしょうか。先ほど開祖忌法要を執り行いましたが、少林寺拳法の世界には開祖の教えという常識が厳然としてある、素晴らしく立派な組織です。しかもこの常識は、いまだ古びたり現実からズレたりすること無くむしろ先駆的な常識として光り輝いています。そういう意味では、全く理想的な組織といえますね。
逆に常識が世間とズレていることが明らかになった組織としてもっとも最近取りざたされているのは、JR西日本かもしれません。またそれに対して、素晴らしい常識を共有していると思われるのは、全社一丸となって急遽救助に当たった事故現場周辺のあの中小企業ですよね。個人が、いても立ってもいられなくなってボランティアを買って出る事は良くあります。でも、あのような形で組織的にボランティアを行えたのは、普段から、深いコミュニケーションが図られていて、社内の常識が社員全員に浸透しており、なおかつその常識が世間の常識としっかり一致していたからこそだと思うのです。本当に素晴らしい事です。
翻って、少林寺拳法の組織は、果たしてそれほどまでに組織の常識を共有できているでしょうか。もちろん開祖の教えは、拳士ならば誰でも理解し口にもしているはずです。けれども、行動の思想であるその教えを、自らの行動指針として実践しているかどうかを問われると、胸を張ってそのように生きていると言える人は数えるほどしかいないかもしれません。私たちは、確かに教えを共有していますが、それが組織の常識であると言えるほどに自分のものにしているかどうかは、はなはだ疑わしく感じています。むしろ組織が常識を共有する事で成立するものだとするならば、今のこの組織は、開祖の教えとは異なる常識を共有しているのではないかとすら感じています。

5、 我々のなすべき事(教育)

教えは、それを知っているだけでは何の意味もありません。全く別の常識のもとにこの組織が成り立っているとすれば、一刻も早く開祖の教えを遠田先生の言う互解、つまり今ある常識に対抗できうる相互理解として、広めていかなければなりません。互解が広がり、古い常識を打ち破ってまた新たな常識を築くことで組織は生まれ変わります。開祖の教えとは違う変な常識を打ち破り、開祖の教えを互解から常識にまで高めることで、この組織の素晴らしさが発揮できるようになると思います。金剛禅門信徒として、三宝の一つに数えるこのサンガを守り広めていくためには、我々一人一人が、本当の意味で教えを体得体解して生きていくことが大切なのです。皆さんにはちょっと難しい話だったかもしれませんが、真剣に教えを求める修行に励んで欲しいと思います。サンガを守るとは、同志を守る事であり、つまりは自分自身を高めていくことになるのですから。
実はこの話には、続きがあります。最近私は、技術指導について考えるところがあり、今までの指導法を見直してやっていますよね。原理原則の指導中心から、基本指導重視に帰っています。基本ができていれば、そこに原理を当てはめて大きく成長する事ができるけれども、基本のない中で原理を聞いても少林寺拳法の技術として活かすことができないと気がついたからです。遠田先生は、「初等中等教育では常識を教え、大学などの高等教育では互解の形成にあたる《べきであると述べておられます。つまり、基本である常識を先に徹底的に教え込まれるからこそ、全く新たな発想や展開が可能になるわけです。
この組織の常識が開祖の教えとずれてしまっているとすれば、それは、基本をおろそかにしてきたがゆえだと思います。今年になって武専に入学された拳士も増えましたが、武専の高等科や研究科に進むまでは、技術も教えもその基本をじっくりと学び、少林寺拳法の正しい常識を身につけて欲しいと心から願っています。私も精一杯皆さんに伝えていきますので、ついて来てくださいね。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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