時 事 法 談 (52)

「金剛禅の修行で何を身につけるか」

2004年7月1日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「金剛禅の修行で何を身につけるか《についてお話します。

1、 小泉政治の手法

また選挙が始まりました。今日は、小泉政権の政治手法について少しお話したいと思います。
年金問題は、まともな議論を行わないままに強行採決されました。政治は数が全てです。小さな政党には、質問する権利もありません。数を持っている政権政党は、間違いなく満場一致で決まると思われる法案には、多くの時間を費やし、もめる可能性のある法案には、ほとんど時間を配分しません。だからそういう法案には議論する時間がなく、国民に考える間を与えずに多数決で決めてしまうのが、常套手段です。野党は、その貴重な時間を使って、鋭く論議すればいいわけですが、いつもの事ながら、スキャンダルを追うことばかりに熱中して、本論での議論がますます少なくなっているのが現状ですね。
そしてイラク問題です。小泉総理は、アメリカによるイラク戦争を独断で支持しました。その上今度は、多国籍軍への参加をこれまた独断で決定してしまいました。国会での議論はおろか、国民に対してろくな説明もなしに、さっさと閣議で決めてしまいました。
以前もお話しましたが、政治に正解はありません。その決断が良かったのか悪かったのかは、歴史が決めることです。でも、少なくとも、そのときそのときの重大な決断には、活発な議論を通して国民が紊得し、国民自身が歴史に責任を負うべきだと思うのです。国民のあずかり知らないところで、勝手に時の指導者が決めてしまうのは、独裁政治以外のなにものでもありません。独裁政治というものは、とかく「自分さえ良ければよい《とか「自分たちさえ良ければそれでよい《という、いわゆる上正に結びつきやすいものです。たとえ総理に強力なリーダーシップを求める人たちでも、独裁政治は望まないでしょう。三菱自動車や三菱ふそうに見られるような、まともならばとても考えられない上正が、他人の意見を聞かない体質や体制から、現実に生まれているわけですからね。
政治は、自分の信念にもとづいて、自主的かつ主体的に考えるべきですし、選挙は、自分自身の考えでそれに臨むべきです。誰に投票するか、どんな政策を支持するかは、きわめて個人的な問題です。少なくとも金剛禅門信徒である皆さんは、理想境建設への最善の道を、拳士それぞれが自分で模索しなければなりませんよ。
ただし、政治の前提として、「嫌なことはいや《「悪いことは悪い《と自由に主張し議論できる社会でなければ、きわめて危険であり、平和で豊かな理想の社会にはなり得ないと思います。今、そんなことを強く思っています。

2、 修行の目的

金剛禅門信徒である皆さんは、こういうことに対してもっともっと真剣に取り組んで欲しいと思います。政治には興味がないという態度ではいけません。何しろ私たちの最終目的は、理想境建設なのですからね。
修行の目的をもう一度整理しましょう。
まずは、健全でたくましい身体と心を養うこと。強くて優しくて賢い自己に変革すること。自己確立が修行目的の一つの大きな柱です。
そしてもう一つの柱が、自他共楽ですね。平和で豊かな社会を築くリーダーになって、一人一人が信念にもとづいて勇猛果敢に行動する。正直者がバカを見ない、誰もが安心して暮らせる、理想境建設に向けて積極的な行動をとれるようになることが大きな目的です。
そういう自己確立と自他共楽の修行の過程で、多くのことを身につけていかなければなりません。

3、 日常生活

今日は、少し具体的に考えてみましょう。本来ならば、これから述べる一つ一つは、行動を通してじっくり考えてもらわなければならないことですが、まずは総花的に思いつくままに、並べてみたいと思います。
朝起きてから、夜寝るまで、時間を追って考えて見ましょう。まずは、自分で起きなければなりませんね。誰かに起こされてぐずぐずしているようでは、とても修行者とは言えません。「ベッドメイキング《、「挨拶《、「家事の分担《、「持ち物のチェック《など、当たり前のことが当たり前にできることが大切です。
通勤通学では、「時間を逆算《して、「余裕《をもって出掛け、その道中は「危機管理《も徹底しましょう。最近特に思うのは、公共の場での態度です。駅のホームや電車の中で地べたに座り込んでいたり、携帯に夢中になっていたり、化粧をしたり、とても見苦しいことがやたらと目に付きます。まるで乞食のようにしゃがみこんでいる姿は、諸外国では、まともな暮らしをしている人のすることではありません。あまりにも恥ずかしいことです。それを恥ずかしいとも思わない、誰も注意しないところに、この国の大きな問題がありますね。
学校や会社では、「挨拶《、「作務《、「時間を守る《、「師や上司に対する態度《、「整列《、「整理整頓《、「返事や挙手《、「機敏な行動《、「規律ある生活《、「段取り《、「約束を守る《、「いじめない、いじけない、挫けない《、「空気を読む《、「けじめをつける《、「先を読んで今を決める《、「自然な流れ《、「失敗への対処《、「逃げない、忘れる、楽しむ《、「変化する《、「無理、無駄、ムラをなくす《、「目的にあった行動《、「極めと冴え《、「真剣に、本気で《といったことなどが大切ですね。
食事や人間関係などでは、「お茶だし《、「食事のペース《、「気配り《、「食作法《、「片付け《、「みなり《、「態度《、「言葉遣い《、「礼儀《、などがあげられます。
家に帰ってからは、「挨拶《、「脚下照顧《、「家事の分担《、「脱いだものをたたむ《、「翌日の準備《、「けじめのある生活《、「翌日に責任を持って早く寝る《など、いずれにしても、細かくあげればキリがありませんが、いろいろなことに気を配って生活しなければなりませんね。

4、 理想の拳士像

これらのことを身につけていく中から、理想の拳士像に近づけるように努力しましょう。
読本によれば、理想の拳士像としては、次の5点が挙げられています。「自己の可能性を信じる生き方ができる《、「主体性を持った生き方ができる《、「他人の幸せを考えて行動できる《、「慈悲心と勇気と正義感をもって行動できる《、「連帯し協力し合う生き方ができる《です。
「自己の可能性を信じる生き方《は、ダーマ信仰にもとづいて、自分の命と尊厳を大切にすることから始まり、自信を持って、何事もあきらめず決して負けないで前向きに取り組む上撓上屈の生き方です。
「主体性を持った生き方《は、自主的になると言うことで、自分自身と社会のリーダーになることですね。
「他人の幸せを考えて行動《するとは、ダーマ信仰にもとづいて、他人の命と尊厳を大切にする心から始まります。
「慈悲心と勇気と正義感をもって行動する《とは、本当の強さを身につけて積極的に行動することが大切です。
「連帯し協力し合う生き方《とは、妥協ではなく、信念にもとづいて連帯することです。

5、 いかに修行するか

金剛禅の修行は、易筋行が主たる行です。けれども、ただそれだけやっているだけでは、今まで述べてきたような生き方を身につけることはできません。鎮魂行などに代表されるその他の行も大切ですし、行住坐臥全てが修行と心得て、日々の生活を送る気持ちが大切なのです。
そんな中で、行事や儀式も重要です。今度の日曜日に行われる県大会も、単なる演武発表会や競技会としてとらえるのではなく、演武を行うのも、それを観るのも、あるいは、トイレに行くのも修行だと考えてください。修行者みんなで、ともに過ごす時間が大切なのです。全てを修行と考えれば、学ぶべきことは数限りなくあるわけですから。そんな意味では、先日行われた合宿や、今月行う少年キャンプなどは、絶好の修行の場です。万難を排して、行事には積極的に参加していただきたいと思います。子供の指導のためばかりでなく、自らの修行として、素直な気持ちで取り組んで欲しいと考えています。
信条や道訓の実践は、その言葉になっているものをもっともっと深く追求し細かく具体的に整理しなければなりません。日常生活での一つ一つの行動全てを自分で制御するように修行するのです。
そもそも修行というものは、「知っている《とか、「わかっている《というレベルから、実際に「できる《レベルや、「身につく《レベルにまで高めていくことだと思います。

6、 理想境建設への道

知っているのにできなければ、何の意味もありません。信条や道訓の言葉を自分の行動に表すことが大切なのです。「行動を通して精神を改造し、精神の修養によって行動を規定する《そんな拳禅一如の修行が絶対に必要です。駅のホームや電車の中でだらだらせずに、格好よく生活するためには、体力も必要です。真剣に自分を鍛え磨く努力なくして、自己確立はあり得ません。お手軽に修行することなどできないのです。
真剣な修行を通して徳を身につけ、尊敬され信頼される生き方をする。誇り高い生き方をして、自分自身と社会のリーダーになりましょう。
自らの魄を修め、魂を養うことで、自他共楽の理念を自らのものとして、理想境建設にまい進しましょう。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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