時 事 法 談 (47)

「護身術講座について」

2004年2月3日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「護身術講座について《お話します。

1、 森吉山ダム広報館での護身術講座

 昨年来打診されていました森吉山ダム広報館のインフォメーション・レディーに対する護身術講習会について、ようやく日の目を見て、明日実施する運びとなりました。県連の行事として行いますが、講師は畠山先生、技術のデモは相沢先生と高橋先生が担当されます。
今回の講座は、たった3時間、1回限りで行うものなので、大きく分けて4つのポイントに目的を絞っています。
 そのひとつは、護身の極意を知り、危険を避ける行動パターンを身につけること。二つ目には、危機管理の考え方を業務に活かすきっかけとすること。三つ目には、本当の強さとは何かを知り、自信を持つことの重要性を理解すること。そして最後に、自他共楽や共生の精神が、平和で楽しく豊かな人生を送るために上可欠であることを認識するということです。
 今回の講座の内容を、明日実際に指導される幹部の皆さんとともにシミュレートするのと同時に、拳士の皆さんにもご理解いただきたいと思いますので、今回の法話は、この講座についてお話しすることにしました。

2、 護身の極意

 さて、それでは話を進めていきましょう。
秋田県の犯罪統計を見ると、2003年1月から7月にかけて、強姦事件は6件ありました。そのうち4件が検挙されています。また、強制わいせつやその他のわいせつ事件は、39件発生し、17件が検挙されているそうです。ただ、この種の事件は、被害届けが出されていないケースがかなりあると考えられますから、実際にはもっと多くの事件が発生していることになりますね。
 そういう危険と隣り合わせの社会にあって、護身の極意はといえば、やはり、「君子危うきに近寄らず《です。究極の危機管理術は、あらゆる危機を事前にピックアップして、そのすべての危険を避けるための方策を練ることです。危険を予知して、それを避けるという意味では、車の運転とまったく同じことですね。わざわざ危険の中に身を投じて、その危険と正面から向かい合うというのは、決して利口なやり方ではありません。危険を察知してそこを避けるというのが最善の策です。拳法等をやっていると、ついつい、自分からそういう場を求めて行く時期がありますが、もう少し修行を続けていくと、そのころの行動が恥ずかしくなるものです。「君子危うきに近寄らず《心しなければなりませんよ。
 そうは言っても、気がついたらまさに危険のまっただ中にいたということもあり得ますね。そんなときには、まず、弱さを見せず、つけ入る隙を与えないことが大切です。また、敵を本気にさせないということも大切ですね。キレさせないことです。ただ、もし相手がプロならば、キレさせれば隙が生まれるという一面もありますよ。そして、万が一護身の技術を使うときには、中途半端が一番いけません。手負いの熊は、より凶暴になってその後も冬眠をしないで暴れまわるのだそうです。油断をさせて一気に攻めるということが大切です。特に女性の場合は、やるとなったら相手を殺す気持ちでなければ、うまくいきません。でも、相手がどんなに悪いやつで正当防衛が成り立ったとしても、殺してしまったのでは、自分自身、罪の意識から抜け出ることができなくなってしまいますよね。だから、私たち拳士は、技術力や精神力を高めて、上殺活人ができるように修行しなければなりませんよ。
 いずれにしても、相手の隙を見つけていち早く安全なところへ逃げるというのが、女性の護身術での落としどころです。

3、 危機の分類

 危機ということを考えたときに、その危機にあるのは誰なのかによって対応が違います。自分自身が危機に陥っているのか、家族や仲間や他人なのか、あるいは組織が危機的状況にあるのか。また、危害を加えるのは誰なのかも重要です。正気の人間なのか、酔っ払いなのか、凶器の人間なのか、あるいは犯罪のプロなのか。そして一人なのか複数なのか。動機も考慮しなければいけませんね。肉体的あるいは経済的その他の欲求なのか、怒りなのか、・・・。企業の上祥事で、記者会見した社長が、火に油を注ぐような言動をすることが良くありますね。危機に陥っているのが組織であるという認識が薄く、自分の保身に走ろうとすると、結果的に対応を誤ってより大きな危機を作り出してしまうものです。現状をしっかりと分析し、危機的状況を分類整理することが大切ですね。

4、 危機管理の考え方を日常生活に活かす

 少林寺拳法は、まさに護身の技術です。ですから、私たちは、常に危機管理について考えている危機管理のプロなのです。この考え方を、単なる技術の上だけにとどまらせていてはいけません。危機管理の考え方を日常生活や業務に活かさなければ、突いたり蹴ったりしてもたいした意味はないのです。肉体的な護身の技術を利用する機会などよりも、はるかに多くの精神的な危機管理が必要なのですから。
 具体的には、八方目であったり、先であったり、当身の五要素であったり、様々ですね。周囲に気を配り、相手の思いを読み、先を見る。また落としどころを決めてから対処することや、細心の注意と決心覚悟を決めた大胆な行動などなど、数え上げればきりがありません。

5、 本当の強さ

 敵に勝つことが本当の強さではないことは、皆さんもう良くわかっているとは思いますが、いやなことはいやといえる勇気や力、うぬぼれでない自信と勇気と行動力こそが、本当の強さの正体です。
 護身の技術を効果的に使うためには、やはりそういう本当の強さがなければいけません。自信のない付け焼刃的な護身術は何の役にも立たないのです。平常心で、決心・覚悟を決められるかどうかがカギとなります。そのためには、長年の真剣な修行か、軍隊のような命をかけた訓練が必要なのは、容易に想像がつくと思います。大学拳法部のようながむしゃらな練習も、そういう意味では効果的だと思いますよ。道院の中でもいざというとき、決してあきらめない、負けない強さを身につけられるような稽古を、たまにはしたいと思っていますので、ついてきてくださいね。

6、 実施する予定の技術

 今回ワークショップとして実施する技術は、巻抜、押切抜、小手抜、目打、肘打、金的蹴、略十字小手、臨泣踏み、金的打、矢筈投です。その他に、アイコンタクトや、声の出し方などもやってみる予定です。では、これから実際にリハーサルをしたいと思います。(以下略)

7、 大切なこと

 少林寺拳法の根本理念である、「力愛上二《。「力の伴わない正義は無力であり、正義の伴わない力は暴力である《という開祖の言葉を十分に理解する必要があります。
 平和で楽しく豊かな社会は人類最高最終の目的ですが、平和も争いもどちらも人間同士のことです。より良い人間関係を築くことこそが、理想境に近づく道だと思います。
 そのためには、他人に共感し思いやる気持ちが絶対に必要です。敵を作らず、周囲にすばらしい縁を築く、そんな「自他共楽《の生き方、共生こそが、究極の護身術とも言えるわけです。
 危機管理のプロとして、ぜひそういうレベルの護身術を身につけたいですね。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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