時 事 法 談 (34)

「あたりまえのようなお正月について」

2003年1月9日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「あたりまえのようなお正月について《お話します。

1、今年の年賀状

新年明けましておめでとうございます。たった今旅行から帰ってきたばかりなので、皆さんの年賀状をまだ読んでいません。本来ならば皆さんの決意の程をここで披露したかったのですが、今日は、逆に私から門下生の皆さんにお送りした年賀状について解説したいと思います。ここで読んでみますので、もう一度思い出してみてください。
「北朝鮮やアフガニスタンの子供たち さむいだろうね ひもじいだろうね ルワンダやネパールの子供たちも お金がなくて学校に行けない あたりまえのように あたたかい家でおせちを食べて あたりまえのように 学校に行くキミたち それはあたりまえのことではないんだよ みんなに同じ命 世界中のどの命も 必要だから生きている ダーマによって生かされている そこに差別があってはいけないよね みんなで協力して、平和で豊かな社会をつくっていこう。《
最近の世界を見ると、混乱と衝突であふれ、指導者達はことさらに他人との違いを強調して国家や民族の利害に結び付けようとしています。私たちは、この世の中の様々な違いの中から「命《という共通項を見出して、ともにダーマによって生かされている「喜び《と「重さ」を体感し理解する事が、とても大切です。
旧聞に属しますが、チェーンメールのように広がった「100人の村《というのをご存知ですか。当時私にも、何通かそのメールが届きました。ここでその一部を朗読しますので、聞いてください。
「今朝、目が覚めたときあなたは今日という日にわくわくしましたか?今夜、眠るときあなたは今日という日にとっくりと満足できそうですか?いまいるところが、こよなく大切だと思いますか? すぐに「はい、もちろん」と言えなかったあなたにこのメールを送ります。これを読んだら周りが少し違って見えるかもしれません。 世界には63億人の人がいますが、もしもそれを100人の村に縮めるとどうなるでしょう。 100人のうち、52人が女性です。48人が男性です。30人が子供で70人が大人です。そのうち7人がお年寄りです。90人が異性愛者で10人が同性愛者です。70人が有色人種で30人が白人です。61人がアジア人です。13人がアフリカ人、13人が南北アメリカ人、12人がヨーロッパ人、あとは南太平洋地域の人です。33人がキリスト教、19人がイスラム教、13人がヒンドゥー教、6人が仏教を信じています。5人は木や石など、全ての自然に霊魂があると信じています。24人は、他の様々な宗教を信じているか、あるいは何も信じていません。17人は中国語をしゃべり、9人は英語を8人はヒンディー語とウルドゥー語を、6人はスペイン語を6人はロシア語を、4人はアラビア語をしゃべります。これでようやく、村人の半分です。後の半分は、ベンガル語、ポルトガル語、インドネシア語、日本語、ドイツ語、フランス語などをしゃべります。 いろいろな人がいるこの村では、あなたとは違う人を理解する事、相手をあるがままに受け入れること、そして何より、そういうことを知る事がとても大切です。
 またこんな風にも考えてみてください。 村に住む人々の100人のうち、20人は栄養が充分ではなく、1人は死にそうなほどです。でも15人は太りすぎです。全ての富のうち6人が59%を持っていて、みんなアメリカ合衆国の人です。74人が39%を、20人が、たったの2%を分け合っています。全てのエネルギーのうち20人が80%を使い、80人が20%を分け合っています。75人は食べ物の蓄えがあり、雨露をしのぐところがあります。でも、あとの25人はそうではありません。17人はきれいで安全な水を飲めません。銀行に預金があり、財布にお金があり、家のどこかに小銭が転がっている人は一番豊かな8人のうちの一人です。自分の車を持っている人は7人のうちの1人です。村人のうち、1人が大学の教育を受け、2人がコンピューターを持っています。けれど、14人は文字が読めません。もしも、あなたが嫌がらせや逮捕や拷問や死を恐れずに、信仰や信条、良心に従って何かをし、ものが言えるなら、そうではない48人より恵まれています。もしも、あなたが空爆や襲撃や地雷による殺戮や武装集団のレイプや拉致に怯えていなければ、そうではない20人より恵まれています。 1年の間に、村では1人が亡くなります。でも、1年に2人赤ちゃんが生まれるので、来年村人は101人になります。 もしもこのメールを読めたなら、この瞬間、あなたの幸せは2倊にも3倊にもなります。なぜならあなたには、あなたのことを思ってこれを送った誰かがいるだけでなく、文字も読めるからです。けれど何よりあなたは生きているからです。昔の人は言いました。巡りゆくもの、また巡りかえると。だからあなたは、深々と歌ってください。のびやかに踊ってください。心をこめて生きてください。たとえあなたが、傷ついていても傷ついた事などないかのように愛してください。まずあなたが愛してください。あなた自身と、人がこの村に生きてあるということを。 もしもたくさんの私たちがこの村を愛する事を知ったなら、まだ間に合います。人々を引き裂いている非道な力からこの村を救えます。きっと。《 みんなに同じ命。世界中のどの命も必要だから生きている。ダーマによって生かされているのです。

2、世界の現状

イラク問題、北朝鮮問題、中東問題等々、世界は今大変な危機に直面しています。人口爆発、食糧問題、環境破壊のトリレンマにも苦しめられています。エイズの深刻さや教育問題、いったいどこから手をつけたら良いのかさえわからないくらい混沌としています。外務省国際情報局が去年の12月に発表した「2002年国際情勢《を読んでみても、また国連発表資料を見てみても、多くの問題が山積して、事の大変さだけが目に付きます。

3、タイ旅行

ところで今回私は、年の初めからバンコクへ行ってきました。何をするわけでもなく、子供に留守番をさせて夫婦でただゆっくりと過ごしてきたのですが、たった一つある目的をもって行ってきました。それは、M*16を撃つということです。私は射撃マニアではないのですが、以前バンコクで拳銃を撃ったことがあります。思った以上にたやすく的に当たるのに驚いたものでした。M*16というのは、アメリカのアーマライト社による軍用小口径銃で、貫通能力に優れているといわれる小型武器です。このM*16とAK47という旧ソ連で開発されたライフルの2種類が、世界で最も注目されている小銃なのです。どういうことかというと、共産圏諸国をはじめ世界各国の軍用銃として使用されたAK47は、その後継機種であるAK74が開発されて以来大量にあまって、中古品として世界中に破格値や無償で輸出されるようになりました。またM*16も、世界中に輸出され、アメリカが支援している国や交戦団体を中心に、広く使用されているのです。つまり、世界各地で起こっている戦争や紛争、そしてテロにあっては、ごく一般の人たちがこれらの小火器を持って戦っているのです。そして悲惨な事に、これらの銃は、チャイルドソルジャーといわれる子供たちにも持たされ、最前線での捨石にされているのです。M*16というのは、子供でも扱えるほど、使用が簡単だといわれています。その実際を見て、体験してきたいと考えていました。
実際、軍用銃というのは決して暴発せず、誰でも容易に扱え、いつでもどこでも簡単に分解整備が出来なければなりません。軍用銃として採用されているという事は、子供でも扱える銃だといえるのです。今回私は、元自衛官が合法的にタイ国軍とタイアップしている会社主催の、一日入隊のような形で軍事訓練を体験させるプログラムの一つに参加してきました。ただ残念ながら、M*16については、兵士の訓練時間と重なってしまい、実際に触る事が出来ず、代わりにショットガンを撃ってきました。ショットガンが撃てれば、その反動や発射音などの大きさから、M*16等の小銃は、おもちゃのように簡単だといわれたからです。
撃ってみての感想は、思った以上に反動が小さく、的にもよく当たり、意外に簡単だというものでした。構えさえしっかりしていれば、なにも難しい事はありませんでした。少林寺の有段者ならば誰でも簡単に扱えます。ショットガンにしてこうなのですから、きっとAK47やM*16などは、本当に簡単なのでしょう。的を狙って撃つのは、とても面白いものです。突きや蹴りのように直接相手にコンタクトするのと違って引き金を引いてもたいした反動がないので、これが人殺しの道具であるという認識がなければ、遠くはなれた人を撃ち殺してもさしたる罪悪感もなく慣らされてしまうのかも知れません。とても恐ろしい事です。最近の武力紛争で実際に使用され多くの人命を奪っているのは、いわゆる大量破壊兵器やミサイルではなく、これらの小銃に代表される小型武器なのです。紛争後には、武装解除、動員解除、社会への再復帰というDDRといわれるプログラムが行なわれていますが、やられたらやり返し、撃たれる前に撃つのがあたりまえの環境で銃を扱い慣れ、それ無しの生活が考えられない人々にとって、銃を取り上げられる事に対する抵抗が生まれるのは、容易に想像がつきます。小銃問題の難しさを体感してきました。

4、日本の現状

 世界の状況が、命というものをどれほど軽くしてしまったか考えてきましたが、日本でも同じようなことが言えるのではないでしょうか。先ほど少年部の時間に子供たちに質問したのですが、今までいじめられたりいじめたりあるいはいじめを目撃したりした事が一度もないという子供は、たったの一人もいませんでした。教育問題、社会問題、経済問題、政治問題、その他なにをとっても、問題の底辺に、自分しかない心、自分たちさえ良ければいいという甘えがあり、また、本当の意味で自分を大切にしない姿が見えてきます。慈悲心や正義感、優しさや思いやりが欠けた現状を憂えずにはいられませんね。

5、開祖の志

 開祖は、終戦直後の混乱期に、自分の力で世の中を少しでも良くしようと努力する人を育て、その人たちが力を合わせて祖国を復興するための組織をつくろうとされました。そしてダーマの分霊を持って必要とされて生かされている自分の認識と、他人の尊重を、信仰という形で叩き込まれました。

6、我々のなすべきこと

必要とされ生かされて生きている私たちは、自分を信じて、どこまでも努力して、他のために役立つ人にならなければなりません。世界中には、あたりまえのようにお正月を過ごせなかった人たちがたくさんいます。そんな人たちのために何ができるのか。また、自分を産み育ててくれた両親の役に立つ事、身の回りの人たちに必要とされ感謝される事を、一つでもいいから自主的に実行していきましょう。
世界にもう一度目を向けてみると、学校に行かせて貰えず、ペットボトルを半分に切った器を持たされ、路上に一人でいた小さな子供の姿がバンコクにもありました。ネパールではいたるところに、そういう子供たちが飢えています。そんな子供たちにいくらかの施しをする事もあるでしょうが、それでは問題が解決しません。開祖は、「一生面倒を見られるのか《と言われたそうですが、その場で一時しのぎの施しをする事よりも、自分で仕事をして生きていけるように教育を受けさせる事のほうが、問題解決に近いのではないでしょうか。今まさに飢えている人に、食料を与えずにはいられないという思いもありますが、私たちがなすべきことは、本気で深く考えなければなりませんね。
ARCアフリカ平和再建委員会では、いまルワンダ奨学基金を開設して、子供たちの教育資金を募集しています。一人の子供が一年間学校に通うために必要な8000円を一口として、基金を募っています。この事業は性格上、一回限りのものではありません。毎年継続して初めて意味のあるものです。道院としても協力していこうと考えています。門信徒自らが、命の重さと喜びを、体感し理解するためにも。
今年も一年間、自己確立と自他共楽の修行にいっしょに励みましょう。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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