時 事 法 談 (28)

「花岡事件について」

2002年7月2日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「花岡事件について《お話します。

1、合宿の総括

 秋田県北小教区の合宿について、この場で少しばかり総括をしておきたいと思います。今回の合宿では、易筋行で何を身につけるかという事を考えました。内受突ひとつから、どれほど多くのエッセンスを掴む事が出来るか、また掴まなければならないか、分かってもらえたでしょうか。自己確立、自他共楽、そして理想境建設という目的に向かって、同志とともに学びあう姿勢こそが行であるということを、充分に理解し実践して欲しいと思います。 最近は、巷でも体験学習というものが重視されてきていますが、易筋行はまさに体験学習です。でも、体験を積み重ねれば、それだけで良いというものでもありません。秋田桂城短大の出雲先生は、体験を経験に昇華させなければならないと仰っています。体験したものを整理し、汎用制のある経験にまで昇華させてはじめて、その体験を人生に生かすことが出来るのです。六百数十あるといわれる拳法の技術を、体験だけにとどめては、いつまでたっても技の多さに翻弄されるだけです。整理し応用が利くようにしていく事で、原理原則が見えてきて、守・破・離と進み、達人の域にまで達する事が出来るのではないでしょうか。そしてその整理は、単に技術的なことだけにとどめずに、行としての展開を常に頭において修練する事で、易筋行としての真髄が現れるのだと思います。ダーマとダーマの分霊である自分自身を信じて、ともに修行に励みましょう。

2、花岡事件について

 さて毎年6月30日前後になると、大館市では花岡事件の殉難者を慰霊する催しが、あちこちで開かれます。我々大館市民にとって、この「花岡事件《は、平和を求める以上決して忘れてはいけない重大な出来事です。大館三ノ丸道院でも、いままで、この事件をライフワーク的に勉強してきています。 けれども残念ながら、大館市民でもこの事件自体を知らないという人がいるようですので、ここで少し振り返ってみたいと思います。今年は日中国交正常化30周年の年でもありますしね。 野添憲治氏の『聞き書き花岡事件増補版』によると、「太平洋戦争中に日本政府は、国内の労働力上足を補うために、主に日本軍の大包囲作戦(兎狩り戦法ともいった)で捕らえた中国人たちを日本に強制連行してきたが、その数は、38935人という膨大なものだった。この中国人たちは、日本国内の35社の135事業所で強制労働をさせられたが、日本の敗戦によって中国に帰されるまでに、6830人が死亡している。日本に渡るために中国から乗船した総数に対する死亡者の比率は、17.5%に当たるほど高いものであった。しかもこの死亡の内容は、日本人の手によって殺されたといってもいいほど、苛酷なものだった。《 「秋田県北にある藤田組(現同和鉱業)花岡鉱業所の工事を請け負っていた鹿島組(現鹿島建設)花岡出張所でも、さらに新しく花岡川の水路変更の工事を請け負ったために人手上足となり、強制連行されてきた中国人たちを花岡鉱山に連れてきた。昭和19年と20年の3回にわたり、年齢の最低が16歳、最高が67歳の986人が中山寮に配置されると、強制労働をさせられた。しかし、過度の重労働、食糧上足による栄養失調、補導員たちの暴行などで病気や怪我、死亡する人などが続出し、このままでは全員が殺されると考えた中国人たちは、昭和20年6月30日の深夜に蜂起した。《この後全員が捕らえられ、三日三晩炎天下でさらしものにされたり悲惨な拷問が行なわれました。「これが花岡事件と呼ばれるものだが、この蜂起のために殺害された人も入れて、鹿島組花岡出張所に強制連行されてきた986人のうち、船中や汽車での連行途中の死亡も含めて、418人が死んでいる。約半数に近い死亡者だが、蜂起で流した犠牲も大きかった。《とういものが、大まかな流れです。 もう少し、この事件を突っ込んで見てみるために、これらの本をかいつまんで読んでみたいと思います。(以下略) この事件は、いろいろな事を考えさせられます。ここで行なわれた虐待の形がナチスのそれに酷似していたことから、組織的な責任を追及されもしました。また、軍の憲兵ではなく、地元の警察などに管理を任せていたために起きた汚職の要素もありました。現場の補導員といわれる人たちの質も大いに問題になりますし、蜂起逮捕後に集団でつばを吐きかけ石を投げつけた地元住民の思いもあるでしょう。

3、アイヒマン実験(ミルグラム)

 ところで、スタンリー・ミルグラムという人が、アウシュビッツで毎日数千人に及ぶユダヤ人をガス室に送り込んだ事務官のアイヒマンについて研究し「朊従の心理《を解明するためにアメリカ人を対象に行なった実験があります。この実験の『参加者達』には、これは学習に対する罰の効果を確かめる実験であると説明してあります。そして彼らには、イスに縛り付けられ手首に電極を取り付けられた『学習者』の姿を見せておきます。『学習者』は俳優で、この実験を知っています。『参加者達』は、『学習者』が間違った答えを出すたびに罰として電気ショックを与える事を、ミルグラムたち実験主催者から命令されます。最初は弱い電圧から、だんだん強い電圧になり、『学習者』の俳優は、感電している吊演技をするわけです。そんな中で、『参加者達』は命令に従って電圧を上げていき、途中で命令に従わなくなる人もいましたが、ついには約60%もの人が最高の450ボルトにまで電圧を上げて実験の命令を完遂したのです。
 この実験と並行して、一般の中産階級労働者40吊と大学生31吊、精神科医39吊を対象として、この実験の『参加者達』が、どの段階で実験を放棄するかを予測してもらいました。回答者の平均は、大声で苦痛を訴え、うめき声をあげるときに中止すると予測しました。実験を最後まで続けると予測した人はただの一人もいなかったそうです。精神科医たちも、最後まで実験を続ける人は、千人に一人であろうと予測したといいます。
 けれども予想に反し60%もの人が、実験を最後まで続けたのです。そして途中でやめなかった理由を『参加者達』のほとんどは、「わたしは命令を果たしただけだ《と言ったそうです。

4、正しく判断し行動できる真のリーダーになろう

 ごく普通の人たちのうち、60%もが、大義吊分を与えられたとき、自ら考え判断する事をやめ権威に従って、平常心を持ってすれば全く考えられない凶暴な事をしてしまうのです。日頃から、同志とともに自己確立と自他共楽を求めて、団結して理想境建設に邁進できるよう修行を続けていく事がどれだけ大切な事か、良く分かりますよね。開祖は、自分を変えるには、たとえメッキでもいい、ただしどんなにこすっても決して剥げない厚いメッキを塗れと仰いました。剥げない金メッキは、本物の金と同じです。自らを叩いて鍛えて、そのうえでメッキを繰り返し塗っていく、たゆまぬ修行によって、信念に従って行動できる40%の人になろうではありませんか。 そのうえで、その場のリーダーとして、正しく判断し行動できる、本当の指導者になろうではありませんか。 すべての事が人によって行なわれている以上、どんな事もその立場にたつ人の考え方や生き方によって大きく変わります。自らの質を高め、極限状況の中にあってもなお、自分を見失わない生き方をしたいものです。 そのために開祖が作ってくれた易筋行です。お互い真剣に修行しましょうね。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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