時 事 法 談 (22)

「開祖の志を現在(いま)に生かすということについて」

2002年1月8日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「開祖の志を現在(いま)に生かすということについて《考えてみましょう。

1、 年頭にあたって

 新年明けましておめでとうございます。本来ならばおめでたい話をしなければならないところですが、昨年の911から世界は大きくうねりながら、平和とは反対の方向に動いているように見えます。アフガニスタン後の矛先や、パレスチナ問題、チェチェン、印パ情勢、朝鮮半島などなど、火種は尽きることがありません。年賀状にも書いたように、信条にいう平和への貢献を考えると、どうしようもない無力感に襲われてしまいます。それでも、今苦しんでいる人のために、そしてまた理想境建設のために、できることをできるところからやっていきましょう。拳士の皆さんと手をとり合って、地域や世界中の人たちと協力して、ほんの僅かずつでも世界の平和と福祉に貢献していかなければなりません。皆さんの力が必要です。今年もどうかよろしくお願いします。

2、 開創の動機と目的

 さて、開祖は晩年、「原点にかえれ《と叫びつづけられました。年の初めに当たって、もう一度、教範の「少林寺建立の目的と金剛禅の成立《を読んでみたいと思います。・・・(読み講習)・・・ あらためて整理すると、開祖は、「人、人、人、全ては人の質にある《と痛感されて、「慈悲心と勇気と正義感の強い人間を一人でも多くつくる《ことで平和を達成しようとされました。そして、戦後の荒廃した日本の姿を見たときに、「もう一度日本人をして世界の他の民族から、信頼と尊敬を受けるに足る民族に育てる手伝いをしようと決心《されたのです。その後のポイントは、今読んだとおりですね。

3、 開祖の志が現在(いま)に生きている関東学生OB会連合会

 世界中から信頼と尊敬を受けるためには、まず身近なところから始めなければなりません。今月号の会報では中国が特集されていますが、まさに「世界の平和は、アジアの平和なくしてはありえない。アジアの平和は、日中の友好なくしてはありえない《わけで、なおかつその前に、日本の平和、地域の平和、家庭の平和から、確立していくべきですよね。そう考えると、自分自身が信頼され、尊敬されるようになること、そして拝みあい援けあいの素晴らしい人間関係を自分の周りに張り巡らしていくことこそが、「世界の他の民族から信頼と尊敬を受けるに足る民族《になることにつながるのです。 そんな開祖の思いを見事に実現している人たちがいます。関東学生OB会連合会とOB同友会です。そこには国会議員も数多く含まれ、バラエティーあふれる職業の人が在籍しています。その中でも、草創期の大学拳法部で活躍し、今でも母校と少林寺拳法を愛する気持ちを持ってその役員として活躍している方々の多くは、互いに仲間として全幅の信頼で結ばれています。先日行なわれた我が母校の40周年記念誌「白蘭拳《に掲載された大先輩の文章をここで読んでみます。その関係がどれほど素晴らしいものか、よくわかると思います。・・・(新井先輩の「法政大学少林寺拳法部に入部して40年《を朗読)・・・どうしてこんなに素晴らしい関係を築くことができるのでしょうか。それには大きく3つの理由があると思います。 一つは、その仲間内に利害関係がないということです。新井先輩はよく「拳法で商売しちゃあいかんよ《と仰います。仲間から儲けようとしてはいけないって。商売が絡むなら仲間のために出血大サービスをしなさいということですね。この気持ちを忘れずにいるから、利害関係のない純粋な仲間でいられるのだと思います。 二つ目は、学生時代から敵ではなく仲間だったということだと思います。競技スポーツの場合は、自分以外はみんな敵という面がありますね。たとえ集団競技でもポジションをとるためにはチームメイトを蹴落とす必要がある。でも、少林寺は違うでしょう。他大学の拳士を上達させるために、わざわざ出向いてコーチをしてあげるなんて、他のスポーツでは考えられないですね。長嶋さんが球団をまたがって指導をするのは、巨人をやめたからでしょ。少林寺には、敵はいない、いるのは同じ志をもつ拳士だけです。 そして最後に、開祖から直接薫陶を受けてこられたことによって、開祖の教えが、きっちりとバックボーンとして体に染み付いているからだと思うのです。 鈴木代表は、今年のテーマを「開祖の志を現在(いま)に生かす《とされましたが、もうそのテーマを十分にクリアしている人たちがここにいるわけです。それぞれが社会のリーダーとして活躍しつつ、合掌礼一つで最大限の便宜を図りあう。素晴らしいじゃありませんか。私たち現役の拳士も負けてはいられませんよ。

4、 利害優先の現実

 とはいえ、現役拳士の組織を見てみると、組織の中の利害が優先し、「内向き、うつむき、後ろ向き《というのが、悲しい現実でもあります。利害関係のないはずの組織も、大きくなってしまうと、そこに利害を見出す人が増えてしまうのが当然のことなのかもしれませんね。たかが少林寺のことなのに、血眼を変える人がいるのです。うちの道院の中では、さすがにそんなことはありませんが、組織全体を見ると、開祖の時代の団結力はなくなってしまっています。だからこそ組織がリニューアルされ、総裁が拳士一人一人と直接に接する機会を数多く持たれ、また金剛禅教団においては鈴木代表が先のテーマを掲げて必死に引っ張っていこうとされているわけです。大館三ノ丸道院も、私が道院長を拝命して六年になることから、今年、本山の資格更新審査を受けることになっています。これを機会にもう一度組織を見直し、草創期の諸先輩のように団結して開祖の志を現在(いま)に生かしていかなければと、気を引き締めているところです。 話が前後しましたが、翻って国際社会をみてみると、やはり「イデオロギーや宗教や道徳よりも、国家や民族の利害のほうが優先《しているからこそ、混迷の度を増しているのです。まさに世の中、利害で動いています。

5、 信頼と尊敬で結ばれた人間関係を築けば必ず平和が実現する

 そうです。確かに今はまだ、一部の利害によって国際社会が動いているようにみえます。けれども今後、政治家同士の、あるいは民際外交によっての人間関係がゆるぎない尊敬と信頼で結ばれたものとして築かれていけば、利己的な国益追求ではなく、自他共楽の相互利益を追求するようになるはずです。総裁が仰っているように、友達同士になったならば、互いに争ったり殺しあったりしたくはないというのが人情なのですから。「あいつのために何かしてあげたい《と思うのが、本当の友情であり愛というものでしょう。そんな人間関係が広がっていけば、必ず平和が実現すると私は信じています。

6、 尊敬と信頼は貸し借りで醸成される

 では、尊敬と信頼で結ばれた素晴らしい人間関係を築くには、どうしたらよいのでしょうか。人間関係は、たとえて言うなら乱捕りのようなものです。相手と自分との間で攻防を繰り返していく中から、ともに成長し、切っても切れない関係になっていくのではないでしょうか。相手の成長を願ってシビアな攻撃を仕掛け、そのおもいに応えて防御反撃の技術を磨く、そんなやりとりが日常生活でも行なわれるようになれば、きっと素晴らしい友情が育つはずです。 相手との間で、深い付き合いをすればするほど互いがよく見えてきますが、表面的な付き合いだけでは、心からの理解を得ることはできません。真剣に攻撃を仕掛けてくれないと、防御反撃の技術も成り立たず、上達は望めないのです。 坂東先生がご生前に、「酒を飲む友達だけでなく、金の貸し借りができる友達、命の貸し借りができる友達を作れ《と仰いました。命の貸し借りとなると、坂東先生だからこそという気はしますが、金の貸し借りについては、胸に手を当ててじっくりと考えてみる必要があります。 一般に、友達同士での金の貸し借りはするものではないといいます。それは、約束が守られなかった場合に、友情が壊れるからですね。けれども、もっと深い付き合いをして、互いに尊敬と信頼で結ばれているとしたらどうでしょうか。借りる側は、「迷惑をかけたくないからこいつにだけは頼みたくないと思いつつも、万策尽きた最後の頼み《として依頼するでしょう。逆に貸す側は、「こいつのためならどんなことでもしてやりたい。たとえ返してもらえなくても、こいつの役に立つのならそれでいい《と考えて貸すのではないでしょうか。それを受けて借りる側は、「絶対にこいつを裏切ることはできない《と思うでしょう。そして万一約束どおり返せなくなった場合には、「一生かかってでも返していこう《と努力するはずです。貸した側は、「その姿勢を見て、より信頼や尊敬を高め、金ではない別の方法で借りを返せば良い《と提案するかもしれません。 保証人になるということもそうですね。もちろん、自分が肩代わりできない額の保証人には絶対になってはいけませんが、自分が負っても何とかなる有限保証ならば、引き受けたいと思う友達が一人や二人いてもしかるべきではないでしょうか。 もちろん金の貸し借りをしなさいといっているわけではありません。できることなら、そんなことはせずに生きていたいですね。でも貸し借りというのは、金の問題だけではありません。人と人との繋がりは、頼り頼られ、助け助けられることによって、その絆が深くなっていくのです。ある意味ではいろいろな貸し借りが、互いの尊敬と信頼を醸成するとも言えるのではないでしょうか。よく「他人に迷惑をかけない《とか、「他人の世話にはならない《などと豪語する人がいますが、社会生活を営んでいる以上、必ず他人の世話になり他人に迷惑をかけて暮らしているものです。世話になった分、今度は他人のために尽くすというのが本来の正しい生き方ではないでしょうか。拝みあい助け合いの生き方が、大切だといわれる所以です。 自分自身の人間関係を振り返って、どれだけ多くの信頼と尊敬で結ばれた素晴らしい友情があるか、じっくり考えてみてください。 ただし、乱捕りでも、シビアな攻撃にはケガが付きまといます。表面的なつきあいだけなら傷つくことはありませんが、金に限らず様々な貸し借りをする深い付き合いをしていくと、火傷をすることも出てきます。裏切られたときには、他人を見る目の至らなさと、自分自身の徳のなさを反省し、また新たな人間関係を築いていけばよいのです。先月の布薩会でもお話したように、自分が醸し出す影響力によって他人が感化されることはあっても、決して他人を変えることはできません。「拝みあい助け合い《のつもりで接した相手が、「拝めば助けてもらえる《という一方通行の関係として付き合っていたことが分かったならば、相手を恨まず「縁がなかったのう《と諦めればいいじゃないですか。釈尊も、「友人には、真の友人と偽の友人がある。《と説かれました。その人が偽の友人だと分かったら、新たな真の友人との出会いを求めて、また歩き出せばいいのです。でももし、相手が一旦失った信用を取り戻そうと努力しているならば、それを受け入れるだけの広い度量も身につけたいですね。そして逆に、自分が借りを作った時には、絶対裏切らずにその借りを返し、今度は相手に何らかを逆に貸してあげるおもいが大切です。ただ、できることなら自分が先に貸す立場に立ちたいですね。借りを作ってしまえば、余裕がなくなってしまいかねません。一旦失った信用を取り戻すのは、容易なことではないのですから。だから、たとえ先手を取られたとしても、「気の先《だけは忘れずにいなければなりませんね。いずれにしても、いろいろな意味で貸したり借りたりして成長していくのではないでしょうか。人生も技術も同じことだと思います。

7、 金剛禅運動は自己確立から

 金剛禅運動とは、幸福運動です。みんなで幸せの輪を広げようという運動です。幸せは、どれだけ多くの素晴らしい人間関係を自分の周りに張り巡らせることができるかということで決まります。尊敬と信頼の絆を築いていくということです。 そのためには、まず自分が尊敬され信頼されることが絶対に必要です。自分を磨かなければ尊敬も信頼もされないのです。自己確立に励み、徳を積んで、周囲に影響を与え、周囲の人たちの先頭に立って地域や職場を改造し、社会を改善していく。そんな社会の指導者・リーダーになるように努力していくことが大切なのです。そういうリーダーになっていく過程で、多くの縁が生まれ、拝み会い助け合いの人間関係が成立していきます。そうなれば自分も幸せになるし、周囲の他人も幸せになる。その幸せを断ち切らないためにも、絶対に人を裏切らない。それによって、より良い縁が広がっていく。総裁が仰る「円の効果《にも通じるわけです。 だから、少林寺拳法という素晴らしい手段を利用してそういう人材をより多く育てていくことによって、社会は必ず良くなります。正直者がバカを見ない理想の楽土が実現するのです。 今年も、拝み会い助けあいの同志と一緒に、自己確立と自他共楽の修行に励むとともに、布教活動に勤しみましょう。そのためにも、小教区の行事を充実させていくつもりです。皆さんの精進と、協力を期待しています。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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