時 事 法 談 (9)

「団結して 行動しよう」

2000年12月5日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて去る11月1日に、少林寺拳法の組織がリニューアルされました。21世紀は、新たな組織で今まで以上に金剛禅運動を強力に展開していかなければなりません。そこで今回は「団結して 行動する《ということについて、考えてみたいと思います。

1、 50年史を紐解いて

 少林寺拳法の組織が、21世紀にむけて大きく変革しました。これを機会に、少林寺拳法のこれまでの歴史をもう一度振り返り、これからの時代をどのように生きていくべきなのかを考えてみましょう。
 最初に、開祖の「引き揚げ列車武勇談《を、少し長くなりますが、「少林寺拳法50年史(正史)」から紹介します。開祖が、敗戦によって満州(当時)から帰国し、「母方の里へでも行こう《と引き揚げ列車に乗り込んだ中で起こった出来事です。「民族愛に根ざした愛国心をもって、団結して祖国を復興しよう《と、列車に同乗していた人々に訴えかけられました。この心を21世紀に向かう少林寺は、もう一度確認しなければならないのです。

     (満員の引き揚げ列車の中)
 『しばらくして魚の集散地である大きな駅に着いたとき、大変なことが始まった。他国組織の腕章を巻いた、あまり風体のよくない若者が、窓から無理やり乗り込んできた。周囲の人たちを押しのけ突き飛ばして場所を取り、氷が溶けて水の流れ出る臭い魚の箱をたくさん積みこんだのである。 戦後の列車内は、いたるところでこうした場面が見られた。乗客はわれ先にと場所を取り合ったのである。混乱した世相の中で、力が勝つ世の中だった。 理男(開祖の旧吊)はその様子を黙ってみていたが、やがてその中の一人が、「さあ寝るとしようか《と言って立ちあがり、網棚の上に上がって、荷物を払い落とし始めた。棚の上に寝ようというのである。そして、棚に上がった男が荷物を蹴り落としたのである。荷物は運悪く子供を抱いていた婦人の上に落ち、子にも当たったので、火がついたように泣き出してしまった。 それまで辛抱に辛抱を重ねていた理男は、とうとう我慢できなくなり、つい無意識のうちに、「むちゃをするなっ《と大声で怒鳴ってしまった。さあたいへん、網棚の上にいた奴が、いきなり飛び降りて、座っている人の肩や膝を踏みつけながらそばへやって来た。理男の胸倉を左手で掴み、「コノヤロ、文句アルカ《と言いながら右手で殴ろうとしてきた。 理男はこの男を拳法で気絶させ、かかってきたほかの連中もやっつけた後、車内の人たちに呼びかける。 「この列車に乗っているのは、日本人がほとんどなのに、私一人が大勢を相手に戦っているときに、だれ一人として助けようとはしてくれなかった。これは一体どういうことなのか。ここは外地ではなく、日本の本土であるはずである。戦争に破れたとはいえ、九千万もの日本人がまだ生きて住んでいる本土の列車の中ではないか。自分さえ困らなければ、他人はどうなってもかまわないという、情けない根性の人ばかりだから、日本人が何百人も乗っているこの列車の中で、わずか数人の外国人になめられてしまうのだ。日本は戦争に負けたが、まだ一億近い日本人は生きている。これから先は、生き残った我々日本人どうしがお互いに助け合って生きていくより他に方法はないのではないか。どうです。一緒にやりませんか」 思わず大演説をぶってしまったのである。終わると、あちこちから拍手があり、近くの数人が握手をしにやってきて、「やりましょう」「お願いします」などと言い出したので、車内の空気は一変してしまった。』

 この国を本気で立て直したいという、開祖の願いが、この先少林寺の建立とつながっていくわけですが、敗戦後の混乱期とは状況が違っていても、現代も、人心が廃れた大変な時代であることは論を待ちません。開祖の思いをわが思いとして、この武勇談をじっくり噛みしめたいと思います。

2、 強大な組織力を誇った少林寺

 50年史を読むと、昔の少林寺は燃えていたことが良く分かります。「一太郎やぁい事件《、「阪南大学事件《、「極真会館事件」、「河口湖事件」、「武道学会事件」、「関東学連マンモス献血」、「森實大会抗議行動《、「各種訴訟への結集」、「日本武道祭をはじめとした各種行事への一大集結」、・・・何か事あるたびに少林寺では、団結して行動してきたのです。

3、 青幇を目指して

 普段は、みんな別々の仕事をして、ばらばらに生活しているのに、一旦事あると、自分の生活をなげうってでも自然にみんなが集まり、団結して解決に向けた行動をとるというのが、少林寺本来の強い組織力です。今まで見てきたように「50年史《を読んでみると、その強い組織力と団結力、行動力が良く分かりますね。  この組織力は、開祖の強い思いから育まれたものです。「50年史」によると、開祖は、少林寺拳法を教え始めて間もないころから、中国の秘密結社である青幇の「在家裡」を理想に「自信と勇気と行動力をもつ人々の組織化《を考えられていたようです。この「在家裡」とは、職業を問わず、階層を越えて、相互の助け合い、便宜の図りあいを目的として結成され、平和的な手段で社会を改造しようというものでした。このあり方こそが、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを」という言葉を具現化したものなのです。水澤先生が、今月号の月刊誌で「拳法以外のことで、どれだけの行事がコンスタントにこなせていけるかということが、その組織力のバロメーターになると、私は思うわけです。」と仰っています。自分が興味を持っている拳法の行事に参加するのは当たり前ですが、それとは関係のない事でも、仲間と一緒にやりたい、その場に一緒にいたいと思うのがほんとうの友情ではないでしょうか。そこから、「あいつのためなら、・・・《というものが生まれてくるのだと思います。  最近の少林寺は、組織力や行動力がとても弱まっています。そのことを自覚した上で、昔の力を取り戻して、開祖の思いをわが思いとし、我らが青幇目指してがんばろうではありませんか。

4、 政治家の力の源は国民に

 ところで、先般の加藤代議士達の行動を、皆さんはどう捉えていらっしゃいますか。政治が今のままで良いと思っている人はほとんどいないとは思いますが、その流れを変えるのは並大抵のことではありません。その大変なことをやろうとした割には、団結した行動をとれなかったという意味においても思慮のない行動であったようですね。でも法政大学の遠田先生は、意思決定のあいまい性をアカデミックに論じられており、ほとんどの場合、結局のところ非常にあいまいに意思を決定されるものだそうですから、加藤氏についても、ごく一般的な意思決定過程だったかもしれません。いずれにしても、誰に焚きつけられ、どんな工作が行なわれたかは分かりませんが、結果はともあれ自らの力で政治の流れを変えようと行動したことだけは確かです。 けれども、その後自民党が金(?)や数の力で圧力をかけて、辛くもこの動きを止めることに成功したわけです。一連の流れをみて、自民党の政治手法を問題にする人は多いのですが、実際に本当の意味で問題なのは、国民です。今回の一件では、永田町の論理で生きる自民党政治に国民が負けたということに他ならないでしょう。 一般に政治家は、強大な力を持っているように思われていますが、今回のことでは自民党政治に流された「己のない」後援会の圧力に負けて、寝返らざるを得なくなった政治家も数多くいたようです。政治家がどんなことを考えても、選挙がある限り、金と後援会には逆らえないというのも当然です。国民全体から見ればわずかな人数であるはずの後援会が、大きな力を持っています。そしてその「力《を「金の力《で動かす「大きな力《も存在します。でも、後援会に力を与えるのは、その力に屈する国民が数多くいるからです。「己のない国民《が今の政治家を支えているのです。 つまり、政治家に力を与えているのは、国民以外の何者でもありません。「己しかない指導者」と「己のない国民」、それが現実です。

5、 団結して行動しよう

 最近は、産油国の利益確保や中東情勢の悪化も影響してオイルショック期を凌ぐほどの原油高騰が続いています。しかしOPECだけが、産油国の利益を守るために価格を吊り上げている、とばかりは言えません。OPECだけのせいではないのです。なぜなら世界の供給量のうちOPECが占める割合は、40%程度、非OPECが約60%です。そして中でも、石油の供給に占めるアメリカの割合が意外と大きいのです。 合衆国大統領が、「国民の暖房に問題がでないように、国家備蓄を放出する《とパフォーマンスしましたが、石油問題は、意外とアメリカの国内問題でもあるのかもしれません。原油高騰が、アメリカ経済にダメージを与えていることは間違いないでしょうが、オイル・ダラーといわれるドル需要の増加がアメリカの市場に及ぼす影響だって、計り知れないものがあります。 世界中で、「己しかない心」によってリードする指導者と「己のない」一般市民とが一体となって、様々な問題を引き起こしています。先にも見てきたように、政治家の力の源は一般の民衆です。我々一般の市民が、自己を確立し「自他共楽《の精神を身につけ、「己しかない心《を許さない態度をとれば、すぐにでも政治は変わります。 つい最近、「花岡事件《の和解が成立しました。この事件は、当地大館で発生した中国人俘虜の虐待的強制労働と、それに対する中国人俘虜の蜂起そして弾圧により多数の死者を出した忌まわしい事件です。発生の経緯を考えると、国や企業の責任はもちろん、「己しかない《現場の指導者と「己のない《同調者によって引き起こされた「人の質《が問われる悲惨な事件でした。これに対してその後継続的に、多くの支援者と被害者や遺族達が団結して、当事者であった国や企業を相手に戦ってきました。当初は、面子もあり一切の交渉を受け付けなかった企業側も、裁判の席についた後、「基金を設けて遺族や被害者の救済を行う《という調停を受け入れたのです。過去の問題はともかくとして、前向きに事件を解決しようという素晴らしい決断であると評価できます。団結した行動が、日本を代表する大企業をも動かすことが出来た良い事例だと思います。 開祖は、心の改造によって、平和的手段で理想境を建設しようと呼びかけられました。身近な家庭の問題から天下国家や世界の問題まで、我々が団結して行動することで解決に向かわせなければならない問題は、山ほどあるのです。地道で遠回りなように思えても、縁あって金剛丸に乗船した以上は、平和で豊かな理想境実現の崇高なロマンを持って、この道を突き進もうではありませんか。そして同時に、青幇の仲間のために力を尽くそうではありませんか。 大館三ノ丸道院は、何かあったら援け合える、行動できる道院でありたいと考えています。調和の思想を持った拳士同志、協調融和して、私とともに歩んでください。ちょっとくさいかも知れませんが、熱い血潮を燃やしましょう。今こそ、理想境建設に向け、団結して行動すべき時なのです。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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