時 事 法 談 (3)

「「勝ち組《と「負け組《」

2000年4月18日

大館三ノ丸道院専有道場にて

合掌

 金剛禅では、「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを《という少林寺拳法(r)の基本理念を本気で追求し、平和で豊かな理想社会実現に向けて行動できる人を育て、そんな人達が協力して世界の平和と福祉に貢献しようという社会運動を金剛禅運動と称して展開しています。
 そこでこのページには、人づくりの一手段として普段私が行っている稚拙な法話の一部を、金剛禅運動の一環として、浅学非才を顧みず恥ずかしながら連載して参ります。(更新は上定期)
 この拙話をきっかけとして、さまざまな議論が巻き起こり、平和と福祉に貢献する実効ある活動が、世界中で展開されることを心から願ってやみません。皆様のご意見ご感想をお寄せ下さい。

結手

さて、今回は「勝ち組《・「負け組《について考えてみたいと思います。

1、 厳しい生存競争

 今や「勝ち組《「負け組《という言葉で、企業も経営者も労働者も、誰もが選別される時代になりました。この文明社会に生きていると、勝つことだけが目的のように思えてきます。 学生は受験戦争や就職戦線で、よい大学やよい会社を目指し戦い、社会に出ると出世競争、負ければリストラの憂き目にあい、自分は勝っているつもりでいたが会社が倒産というはなしもよく聞きます。人生をマラソンにたとえることがありますが、一人の優勝者と数人の入賞者だけが「勝ち組《であり、ただ完走するだけではその努力とは裏腹に「負け組《とされるのが現実です。

2、 正しい価値観を持つこと

 しかし、「負け組《はもとより「勝ち組《といわれるグループのなかにも心を病む人が増えてきています。ワーキングハイ症候群、セルフナーバス症候群、定年前症候群、無気力症候群、飛行機雲症候群、など等。会社で「勝ち組《といわれている中には、家庭崩壊寸前の人(「負け組《)がいます。受験競争で「勝ち組《となった人の中にも、凶悪な犯罪に手を染める者(「負け組《)もいます。一体何をもって「勝ち組《といい「負け組《というのでしょうか。 数年前のアジア上況の折、その震源地となったタイでもリストラが盛んに行なわれていました。そこでの人員削減では、なんと解雇の対象者をくじ引きで決めていました。われわれ資本主義に慣らされた人間からすると、いかにも上思議な光景です。われわれの常識からすれば、会社にとって有用な人(「勝ち組《)を残し、あまり利益をもたらさない人(「負け組《)を解雇する事があたりまえのように感じますが、タイではそのようには考えないようです。タイは仏教国です。しかも、王様が原始仏教を追及し新たにそれを作り上げて国教と定めたほど、釈尊の正しい教えにもっとも忠実な国のひとつなのです。そこにある価値観は、西欧流の価値観とは明らかに違っていました。 いい大学やいい会社に入ること、出世することや金持ちになること等は、ひとつの価値観として社会的に大いなる存在感を持っています。けれども、本当に大切なことはそんなことでしょうか。
 私たちは、ダーマを灯とし、また自分自身を灯とできるように修行しています。自己中心、会社中心、経済中心、といったパラダイムを離れ、真理を探究することが大切です。誤った価値観を持つと、それを裏切られたときには、もうどうしようもなくなってしまうものです。 たとえば、会社中心主義で働いてきても「負け組《のレッテルを貼られた途端に、自分の存在意義を見失ってしまいます。交通事故による死者が1万人を割るようになった昨今ですが、自殺する人は2万4千人を越えているのです。人はいろいろなことにつまずき挫折を味わいます。しかし、正しい価値観を持っていれば、また新たな希望に向けて歩き出すことが出来るでしょう。枝葉末節の一点だけに中心となる価値観を置かないことが大切なのです。

3、 上撓上屈

 たとえいったんは「負け組《といわれたとしても、その人が最後の死を迎えるまでは決して本当の「負け組《とは言い切れません。生きている限り必ず「勝ち組《に返り咲くチャンスがあるのです。「全てのものはうつろいゆく《諸行無常です。であるならば良く変わるも悪く変わるも、自らの努力次第です。正しい価値観と目的を持ち正しい方法で努力すれば、きっと少しは良く変われることでしょう。 秋田県には、自殺率全国ワースト1という誇れない記録があります。
 しかし、われわれの命はダーマによって生かされているものです。必要であるから生かされているのです。たとえ生命維持装置で強制的に息をさせられている人でも、その家族が愛を与える対象でありつづけているということから、必要があって生かされているのです。どんな命もむだには出来ないのです。 われわれは、達磨の子を誓って門信徒になりました。どんな困難な事態にあっても、「七転八起《、「上撓上屈《の精神で天寿を全うすることが何より大切なのです。上屈の精神力を持って主体的に生きること、それを実践するために必要な健康で強靭な肉体をつくり、無手で身を護れる術を知ることによって、勇気と自信と行動力を身に付けるためにこそ易筋行を行じているのですから。

4、 青幇

 しかし、どんなに自己確立に励んでいようとも、人は一人では生きられません。ある人が自らの優れたところをもって他の人の弱さを補い、またその人も弱い面を他の人から補われる、お互いに拝みあい援け合うことで、生かし生かされる。それこそ幸せの重要な要素である「良き縁《であろうと思います。 挫けそうなときに互いを支えあって、七難八苦を乗り越えていく。そんな繰り返しの中からいつの間にか、幸せな人たちという本当の「勝ち組《に入っていくのではないでしょうか。

以上

 なお、このWEBサイトは、当道院平泉雅章拳士の企画製作により運営されています。この場を借りて感謝を申し述べます。

(宗)金剛禅総本山少林寺大館三ノ丸道院

道院長   小 林 佳 久

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