地下足袋山中考 NO29
<森吉神社避難小屋の展示物を撤去せよ>

船 森吉山を登る  壁画(無題 )
 ●北秋田市の森吉山県立自然公園の核心部に位置する森吉神社避難小屋(1,275m)に「ものの怪」のような作品が展示されている。2012年度から2年間、県教育庁が新秋田県立美術館の教育復旧事業(補助金300万円)として実施し、事業候補者に選定した秋田市出身のアーティスト鴻池朋子氏=東京都=が制作したものである●「野生と人間の境界に立地する山小屋を美術館に」という彼女の発想から生まれた企画は「森吉山美術館ロッジプロジェクト」題し、14年度からは北秋田地域振興局の事業として継続展示されている。作品の一つは、舟の形をし天井のはりに設置されている。底には宇宙をイメージした球体の一部が描かれており、舟のへりからは毛皮をまとった子どもらしき脚がのぞく。もう一つは、大海原から炎が燃え盛り、天空から下りた動物の脊椎が獣を従えてたなびく壁画である●当初から作品内容に驚きと憤りをもって接してきた。森吉山を訪れる多くの登山者からは「わー・人が死んでいる、首吊りしている」「この気色悪い壁画は何ですか」「汗してたどり着き、こんな展示を見せつけられてはたまらない」「こんな青白い足を見ながら眠れない」など、罵声に等しい声が絶えない●避難小屋が位置する森吉神社域は、冠岩を神拝し山頂を御神体に五穀豊穣、人々と地域の安寧を祈願し我がふるさとを確かめる聖域であり、神社の長床でもある避難小屋は雨天時は臨時の斎場所にもなる。非日常を求め、やっと辿りついた「花の百名山」と言われる森吉山は、幽玄な色彩が織りなす世界が広がり、日本海と名高い山々のパノラマアートを楽しめる、まさに美術館である。自然に触れる癒しの空間と邪気を誘い込むような現代アートとは、同じステージで共演できるものではありません●芸術鑑賞とは個々の趣味、思考の求めるに先にあるものだ。公共施設の空間が占有され、観賞したくない作品を強制的に見せ付けられる仕組みは、山を訪れた人の心地よい余韻と感動を損ね、苦痛をも伴う感じがしてならない。名作も展示場所を間違えると評価に価しないと思う●昨夏の終わり、避難小屋の玄関口で靴紐を結びながら泣いている婦人に出会った。体調を気遣うと、舟から脚が垂れ下がった作品や大海から燃え立つ炎の壁画に東日本大震災で津波にのみ込まれたわが子の姿、震災直後の火災の惨状がフラッシュバックしたとのことだった。「毎日、海を見るのがつらくて山を訪れました」。癒しと鎮魂の場を求めて森吉山を訪れたはずなのに・・・。その夫婦の姿に掛ける言葉が見つかりませんでした●このようなボタンの掛け違いに至った要因は、一人のアーティストの思い込みをそのまま承諾してしまった県教育庁にある。「表現の自由があり作品の検閲はできない」との判断で避難小屋の使用を許可した県自然保護課。森吉山ゴンドラ利用増になればと、「人寄せパンダ的企画」を安易に秋田県未来づくり事業と称し展示を継続した北秋田地域振興局。いずれも想像力の劣化と価値判断の誤りが招いたものであり、秋田県のセンスが問われています。自然公園の核心部に立地する施設に設置され、全国に例がない齟齬をきす展示であり、できる限り速やかに撤去し、作品が受け入れられる場所に移設するよう求めたい。

2015年3月11日提出
森吉神社避難小屋展示作品の撤去を求める(要請書)